氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 礼を取ったフーゴにならって、リーゼロッテも淑女の礼を取る。王族に対する最上級のものだ。その優雅な所作にまわりから感嘆の声が漏れるも、今のリーゼロッテにそれに気づく余裕はない。

「よい。顔を上げよ」

 ディートリヒ王の声は、静かだが腹に響くような重みがあった。一度聞けばずっと耳に残る、そんな不思議な声だ。

「この日を迎え、余もよろこばしく思う。ダーミッシュ伯爵、今日までよくぞ務めを果たしてくれた」
「もったいなきお言葉。むしろ感謝を申し上げるのはわたしどもにございます。珠玉の宝をダーミッシュ伯爵家に託してくださったこと、心より感謝いたします。さあ、リーゼロッテ、お前も王にご挨拶を」

「フーゴ・ダーミッシュの長女、リーゼロッテにございます。末席(まっせき)ながら、貴族のひとりに加えていただきたく参上いたしました。本日、御前(おんまえ)にてご挨拶できます事、心よりうれしく思います」

 再び礼を取ったリーゼロッテに、王は金色の瞳をやさしげに細めた。

「良き父に育てられたな」
「……はい。世界一幸せな娘であると、自信をもってそう申し上げられます」
「そうか。伯爵、(まこと)大儀(たいぎ)であった。引き続き父としての務めを果たすが良い」
「身に余るお言葉痛み入ります」

 フーゴも再び深々と礼を取った。

「そうかしこまらずとも良い。さあ、王妃からも言葉を」
「ダーミッシュ伯爵令嬢、顔をこちらに」

 ディートリヒ王の隣で悠然(ゆうぜん)と腰かけていたイジドーラ王妃が、妖艶(ようえん)な笑みを向ける。おずおずと顔を上げると、王妃の離宮で会った時以上に美しい顔がそこにあった。不敬と思いつつも、言われた通りに顔を真っ直ぐに王妃へと向ける。

< 267 / 684 >

この作品をシェア

pagetop