氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
     ◇
 夜会の広間の片隅(かたすみ)で、エラはリーゼロッテの姿をうっとりと(なが)めていた。リーゼロッテは壇上まで敷かれた長い赤絨毯(あかじゅうたん)の上を、フーゴにエスコートされながらゆっくりと進んで行く。

 はじめは遠目にも緊張しているのが見てとれたが、フーゴと何か会話をしたのか、道のりの半ばでは普段通りの足取りとなっていた。

 その優雅(ゆうが)()()()()いに、周囲のあちこちから感嘆(かんたん)の声が()れる。リーゼロッテへの称賛(しょうさん)の声は当然だ。あれほど完璧な令嬢は、この広い会場のどこを探してもいやしないだろう。

 その自慢のリーゼロッテの侍女であれる自分を(ほこ)らしく思う。エラは男爵令嬢として、この白の夜会に参加できたことに心から感謝していた。

「ふふ、リーゼはお父様に何を言われたのかしら?」

 隣にいたクリスタも誇らしげにリーゼロッテを見つめている。エラはリーゼロッテに視線をやったまま、クリスタの言葉に頷いた。

「はい、旦那様のおかげでお嬢様の緊張もとけたようですね」
「リーゼはちゃんと王にご挨拶ができるかしら? 大丈夫とはわかっているけれど、こちらが緊張してしまうわね」
「……わたしもなんだか緊張してきました」

 エラは祈るように手を組んで身を固くする。そんな様子のクリスタとエラを、斜め後ろに立っていたヨハンが覗き込んだ。

「王はとても慈悲深い方です。何も心配はないですよ」

 ヨハンはエラのエスコート役として白の夜会に参加していた。ちなみにクリスタはフーゴが戻るまでの間、エーミールがエスコートしている。

 そのエーミールはリーゼロッテというより、リーゼロッテを目で追っているジークヴァルトに注意を払っていた。

< 269 / 684 >

この作品をシェア

pagetop