氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 多くの貴族に囲まれて辟易(へきえき)しているだろうジークヴァルトが目に入る。近くで控えたいのは山々なのだが、今はクリスタをエスコートしているため、ジークヴァルトのそばには行くことはできない。ダーミッシュ伯爵が戻るまでは仕方がないと、エーミールはリーゼロッテに視線を向けた。

 リーゼロッテは壇上の前に辿(たど)りつき、文句のつけようのない振る舞いで王に礼をとっている。王とも(おく)することなく会話をしているようだ。

 続けて王妃から言葉をもらったあと、壇上に注目していたほとんどすべての貴族から驚きの声が漏れた。

「王太子殿下がダーミッシュ伯爵令嬢にお言葉をかけていらっしゃるわ……!」
「ブラル伯爵令嬢には視線すらお向けならなかったと言うのに……さすがの氷結の王子も、妖精姫の美しさに心を動かされたということかしら!?」

 王子は少なくない言葉をダーミッシュの妖精姫にかけているようだ。妖精姫も臆することなく自然と王子と会話しているのが見てとれた。

 そうなってくると、王太子妃候補はダーミッシュ伯爵令嬢か。しかし、彼女には婚約者がいるという。しかもその婚約者とは、ハインリヒ王子の寵愛(ちょうあい)を受けていると噂のフーゲンベルク公爵なのだ。

 ゴシップ好きの貴族たちの視線が一斉にフーゲンベルク公爵へと向けられた。公爵はわずかに眉間にしわを寄せたまま壇上を(にら)みつけている。あれはどちらに対する嫉妬(しっと)の視線なのか。
 思わぬ三角関係に、特に淑女の間から興奮したような声が漏れて出た。

 白の夜会では王への挨拶がすべて終わったのちに、デビュタントたちが一堂に会してファーストダンスを踊るのが慣習となっている。それが済めば、紳士が各々(おのおの)淑女にダンスを申し込む、いわばフリータイムが訪れる。

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