氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
     ◇
 王族への挨拶を終え、リーゼロッテはフーゴと共にダンスフロアの方へと移動していた。続く二家の挨拶が終われば、そのままファーストダンスが行われる。
 ほっと息をつきつつも、キュプカー侯爵の名が呼ばれそちらへと視線を向けた。

「ブルーノ・キュプカー侯爵、ヤスミン・キュプカー侯爵令嬢、ご登場!」

 キュプカー侯爵は騎士団の近衛第一隊隊長で、ジークヴァルトの上司に当たる人物だ。リーゼロッテも王城で幾度か話す機会があった。

(ヤスミン様、とってもお綺麗)

 王妃のお茶会でたまたま隣り合わせに座った令嬢ヤスミンは、キュプカー隊長の娘だった。(はしばみ)色の瞳がとてもよく似た父娘(おやこ)だ。お茶会に参加していた令嬢は他にもたくさんいたのに、縁とは不思議なものである。

(思えばあのお茶会がすべての始まりだったわ……)

 あの日、王城に行かなければ、異形の者に転ばされる日々が今も続いて、この白の夜会でも粗相(そそう)を働いていたかもしれない。

 ふと視線を感じてそちらへと顔を向ける。顔を上げた先、広い会場の向こうにいたジークヴァルトと目が合った。多くの貴族に囲まれているも、背の高いジークヴァルトは頭一つ分飛び出している。
 青い瞳がじっとこちらを見ている。自分から目をそらすのも失礼かと思い、リーゼロッテはそのまましばらくジークヴァルトへと顔を向けていた。

(何……この目をそらしたら負け、みたいな状況は)

 ジークヴァルトは一向に目をそらさない。リーゼロッテも今さら視線を外すこともできずに、かなり長い時間じっとジークヴァルトと見つめあっていた。

 不意にフーゴに名を呼ばれ、反射的にそちらを見やる。

「キュプカー侯爵様がこちらにいらっしゃる。ご挨拶に行こう」
「はい、お義父様」

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