氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 フーゴに続く前にリーゼロッテはもう一度ジークヴァルトの方を振り返った。ジークヴァルトは先ほどと変わらずこちらをじっと見ていた。

 そんなジークヴァルトに向けてリーゼロッテはふわりと淑女の礼を取る。その様子を見ていた貴族たちは、やはり二人の婚約説は濃厚なのだと色めき立った。
 その様子に気づくことなく、リーゼロッテはフーゴに連れられてキュプカー侯爵父娘がいる方へ歩き出した。

「これは、ダーミッシュ伯爵。お互いに良き日を迎えられよろこばしい限りです」
「ええ、本当に。キュプカー侯爵様には王城で娘と息子が大変お世話になりました。本来ならわたしが出向いてお礼を申し上げねばならないところ、ご挨拶が遅れ申し訳ありません」
「はは、わたしは大したことはしていませんよ。ご令息は優秀すぎてわたしも驚きました。彼が伯爵家の跡取(あとと)りでなかったら、騎士団か我が娘の婿(むこ)にきてもらいたいくらいです。それにダーミッシュ嬢には娘もお世話になったとか。ヤスミン、お前もご挨拶しなさい」

 隣にいたヤスミンがフーゴに礼を取る。

「ダーミッシュ伯爵様、お初にお目にかかります。キュプカー侯爵の娘、ヤスミンでございます。リーゼロッテ様には王妃殿下のお茶会でよくしていただきましたの。これからも仲良くしていただけるとうれしいですわ」

 リーゼロッテに微笑むとヤスミンは可愛らしく小首をかしげた。

「ヤスミン様にそう言っていただけてわたくしも光栄ですわ。こちらこそどうぞよろしくお願いいたします。キュプカー侯爵様には王城で本当によくしていただきました。たくさんのお心遣いに感謝いたします」
「いや、王城ではわたしも随分とおもしろいものを見させていただいた」

 その言葉にリーゼロッテの頬が朱に染まる。王城で毎日のように抱っこ輸送をされていたことだろうか。

「ああ、ダーミッシュ嬢のことではありませんよ。あのフーゲンベルク副隊長を骨抜きにするなど、前代(ぜんだい)未聞(みもん)の事でしたから」

 はははと笑いながらキュプカー侯爵は(はしばみ)(いろ)の瞳をキラリと光らせた。

「まあ、お父様。そのお話、あとで詳しく聞かせてくださいませ」
「いや、王城での、それも職務中の出来事はお前と言えど話せんな」
「まあ! いじわるですこと。いいですわ、わたくしリーゼロッテ様に直接お(うかが)いいたしますから」

 今度はヤスミンの瞳がキラリと光る。ヤスミンはおとなしそうな顔をして、その(じつ)妄想好きの令嬢なのだ。
 しかし、ヤスミンが期待するような話など何もない。興味(きょうみ)津々(しんしん)のヤスミンにリーゼロッテは曖昧(あいまい)な笑みを返した。

< 273 / 684 >

この作品をシェア

pagetop