氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 出だしのステップのタイミングで一斉に動き出し、淑女たちのドレスが大輪の花ように花開く。ぎこちないデビュタントたちをリードする紳士・淑女はみな、どことなく楽し気だ。

 ダンスフロアを周りから眺めていた貴族たちは、つまずいたりパートナーの足を踏んだりするデビュタントたちをあたたかい目で見守っている。慣れない者同士がぶつかって、途中でダンスが滅茶苦茶になるのもご愛嬌だ。
 そんな中でもダンスがうまいデビュタントもいて、それはほぼと言っていいほど爵位の高い令息・令嬢だった。

 リーゼロッテは始めこそ緊張していたものの、ダンスを踊った回数ならば、領地でいつも練習相手を務めてくれたフーゴが(いち)()を争う。フーゴのリードが上手なのもあって、次第に足取りも軽く踊り始める。

 この場が初の舞踏会ということも忘れて、リーゼロッテはフーゴとともにくるくると踊った。たのしくてたのしくて仕方がない。

 最後のステップを優雅に決めて、リーゼロッテは上気した頬のまま動きを止めた。そのままフーゴの手を一歩離れ、向き合った状態でお互いに礼をする。

 わっと周囲から(かっ)さいが起きる。

「デビュタントといえど、伯爵家はさすが格が違うわね」
「ブラル嬢も見事だったが、やはりダーミッシュの妖精姫が今年一番だな」
「あら、キュプカー嬢もなかなか優雅でしたわ」

 さまざまな会話が飛び交う中、リーゼロッテはフーゴのエスコートでダンスフロアから出ようとした。しかし、行く先に人だかりができていてリーゼロッテは身をこわばらせた。
 若い貴族、それもほぼ男たちがリーゼロッテへと迫ってくる。全員がリーゼロッテにダンスを申し込もうと集まってきた紳士たちだ。

 しかし、紳士と呼ぶのははばかれるほど、鬼気迫るものを感じる。互いに牽制(けんせい)し合いながら、獲物(えもの)を狙うかの(ごと)くじりじりと周囲を包囲してくるのだ。しかもその人だかりの中に、ちらほらと異形の者も混ざっている。

「リーゼロッテは大人気だね」

 のほほんとした口調でフーゴが言った。リーゼロッテはどうしていいかわからず、涙目でフーゴの腕にしがみつく。

「大丈夫。心配はいらないよ」

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