氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 リーゼロッテにやさしく微笑むと、フーゴは目の前の貴族の()れに目をくれることなく、その先の人物に声をかけた。

「お待たせいたしました。フーゲンベルク公爵様」

 公爵の名に、紳士の皮をかぶった(おおかみ)たちは一斉に後ろを振り向いた。そこには無表情のジークヴァルトがたたずんでいる。
 無言のままジークヴァルトがすっと手を差し伸べると、ひいっという悲鳴と共に紳士たちが左右に割れた。一瞬で狼たちは、紳士の皮をかぶった羊と化す。

 割れてできた道をフーゴが当たり前のように進み出すと、リーゼロッテもこわごわとそれに続いた。ジークヴァルトの前まで来ると、フーゴは手に取っていたリーゼロッテの小さな手をジークヴァルトに託すように預けていく。

 軽く手を引かれ、気づくとリーゼロッテはジークヴァルトの腕の中にいた。エスコートされるこの姿勢も全く違和感がない。むしろほっとするような安心感があった。

「あとはよろしくお願いいたします」
「ああ、責任をもってタウンハウスに送り届けよう」

 それだけ言葉を交わすと、ジークヴァルトはリーゼロッテを連れてダンスフロアへと向かう。入れ替わりのようにフーゴはフロアから出ていった。

 その一部始終を見ていた羊たちが、手に手を取ってフロアに向かうふたりの後ろ姿を絶句したまま見送った。公爵相手に勝ち目などありはしない。完全敗北を悟り、涙目となる者多数であった。

< 276 / 684 >

この作品をシェア

pagetop