氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「その髪飾り、つけてきたのだな」
「あ、はい。このように素晴らしいもの、滅多につける機会はありませんから」

 エラの夜会巻きにされた髪には、貴族街でエーミールに買ってもらったエメラルドの髪飾りが輝いていた。リーゼロッテから贈られた緑のドレスとの相性も抜群で、今日のエラはどこからみても立派なご令嬢だ。

 エーミールにエスコートされている赤毛の令嬢に好奇の視線を向ける者も多かったが、エラの心はもうリーゼロッテの事でいっぱいだった。ダンスフロアに近づくと、ファーストダンスに続く二曲目のダンスがちょうど始まったところのようだ。

 探すまでもなくリーゼロッテの姿が視界に入る。フロアの中央付近でリーゼロッテは公爵と共に踊っていた。身長差を感じさせない息の合った優雅なダンスに、周囲にいたギャラリーはくぎ付けになっている。

「ああ、リーゼロッテお嬢様……」

 エラの口から感嘆のため息が漏れた。エラの目にはリーゼロッテにだけスポットライトが当たっているかのごとく映る。リーゼロッテの晴れ舞台をその目に焼き付けようと、瞬きもせずにふたりのダンスを目で追った。

 その様子にふっと笑ってから、エーミールもジークヴァルトへと視線を向けた。
 ジークヴァルトは滅多に舞踏会には参加しない。参加したとしてもダンスを踊ることはほとんどなかった。エーミールが覚えている限りでは、ジークヴァルトがデビューの時に母親であるディートリンデと踊って以来、誰とも踊っていないのではないだろうか。

「フーゲンベルク公爵様が踊るなんて前代未聞だわ」
「やはりダーミッシュ伯爵令嬢とのご婚約は本当だったのね。あの首飾りはどう見ても公爵様の瞳の色だもの」
「ダーミッシュ伯爵は妖精姫の求婚をことごとく断っていたそうだけど……公爵家からの申し入れでは拒否はできなかったのでしょうね」

 そこかしこでひそひそと噂話が繰り広げられている。その浮ついた様子に「くだらんな」とエーミールは鼻を鳴らした。

 そうこうしているうちに曲が終盤を迎え、二曲目のダンスも終わりを告げる。ダンスを終えて休憩に向かう者、他の相手にダンスを申し込む者、次のダンスに参加すべくやってきたカップルなど、ダンスフロアは入れ替わりが行われている。

 勇猛(ゆうもう)果敢(かかん)な紳士の幾人(いくにん)かが、次のダンスの相手にとリーゼロッテへと距離を詰めていく。しかし、ジークヴァルトがリーゼロッテの手を離さないまま、次の曲が流れ始めた。

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