氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「わたしたちも行こう」
エラの返事を待たないまま、エーミールはダンスフロアに足を踏み入れた。
慌てるエラの手を取って、流れる音楽に乗せて踊り始める。エラは社交界慣れしていないものの、リーゼロッテの手本となるべくダンスはほぼ完ぺきに極めていた。
エーミールのリードもあって、ふたりはするするとフロアの中心へと滑り込んでいく。踊りながらジークヴァルトたちのいる方向を確かめ、エーミールは少しずつ距離を詰めていった。エーミールの意図が分かったのか、エラもその動きに合わせてくるので、曲の序盤でジークヴァルトの近くまで来ることができた。
夜会など大勢の人間が集まる場所には、異形の者も寄ってくる。中には異形に憑かれている者までいたりするので、エーミールはジークヴァルトの身が心配だった。それでなくとも、ジークヴァルトは異形に好かれるリーゼロッテとともにいるのだ。
案の定、ふたりの周りには異形の者が常よりも集まっていた。ジークヴァルトもリーゼロッテを守りつつ、踊りにくそうな様子だ。
エーミールは周りの異形たちを祓いつつ、さらにジークヴァルトたちの近くのポジションを取った。急な進路変更に、エラはバランスを崩しつつも何とかついて来る。
「悪いが少しつきあってくれ」
何に、とは言わずにエーミールは異形たちの動きを追うようにステップを踏んだ。異形の姿が視えないエラは、予測がつかないエーミールの動きについていくのがやっとのようだ。
エラは戸惑ったようにエーミールの顔を見上げたが、その視線は近くで踊るジークヴァルトとリーゼロッテに向けられている。エーミールの意図が分からない。だが、その動きに何か意味があるのだろうと、エラは何も問わずにダンスを続けた。
(本当によくできた女性だな)
エラはいつも、一を見てこちらの意図を十まで察する。余計な詮索はしてこないし、どうやら身体能力も高いようだ。女性をリードするというには乱暴すぎる無茶な動きにも、エラは難なくついてくる。
エーミールはエラの手を握る手にぐっと力を込めて、エラの体を自分の方へ引きよせた。そのまま異形の吹き溜まりへと大きくステップを踏み込んでいく。
「――……っ!」
さすがのエラも驚いたように足をもつれさせた。バランスを崩しかけたエラを支えながら、異形へ力を放つ。しかし、それが届く前に異形たちは距離を取るようにさっと引いていった。
「はっ、あなたはすごいな」
無知なる者であるエラが近づくと、異形たちは追われた羊の群れのごとく逃げ去っていく。その様子に半ば呆れながら、エーミールはジークヴァルトの周りにいる異形たちを少しずつ遠ざけていった。
エラは訳も分からぬまま、エーミールの動きに翻弄され続けたのだった。
エラの返事を待たないまま、エーミールはダンスフロアに足を踏み入れた。
慌てるエラの手を取って、流れる音楽に乗せて踊り始める。エラは社交界慣れしていないものの、リーゼロッテの手本となるべくダンスはほぼ完ぺきに極めていた。
エーミールのリードもあって、ふたりはするするとフロアの中心へと滑り込んでいく。踊りながらジークヴァルトたちのいる方向を確かめ、エーミールは少しずつ距離を詰めていった。エーミールの意図が分かったのか、エラもその動きに合わせてくるので、曲の序盤でジークヴァルトの近くまで来ることができた。
夜会など大勢の人間が集まる場所には、異形の者も寄ってくる。中には異形に憑かれている者までいたりするので、エーミールはジークヴァルトの身が心配だった。それでなくとも、ジークヴァルトは異形に好かれるリーゼロッテとともにいるのだ。
案の定、ふたりの周りには異形の者が常よりも集まっていた。ジークヴァルトもリーゼロッテを守りつつ、踊りにくそうな様子だ。
エーミールは周りの異形たちを祓いつつ、さらにジークヴァルトたちの近くのポジションを取った。急な進路変更に、エラはバランスを崩しつつも何とかついて来る。
「悪いが少しつきあってくれ」
何に、とは言わずにエーミールは異形たちの動きを追うようにステップを踏んだ。異形の姿が視えないエラは、予測がつかないエーミールの動きについていくのがやっとのようだ。
エラは戸惑ったようにエーミールの顔を見上げたが、その視線は近くで踊るジークヴァルトとリーゼロッテに向けられている。エーミールの意図が分からない。だが、その動きに何か意味があるのだろうと、エラは何も問わずにダンスを続けた。
(本当によくできた女性だな)
エラはいつも、一を見てこちらの意図を十まで察する。余計な詮索はしてこないし、どうやら身体能力も高いようだ。女性をリードするというには乱暴すぎる無茶な動きにも、エラは難なくついてくる。
エーミールはエラの手を握る手にぐっと力を込めて、エラの体を自分の方へ引きよせた。そのまま異形の吹き溜まりへと大きくステップを踏み込んでいく。
「――……っ!」
さすがのエラも驚いたように足をもつれさせた。バランスを崩しかけたエラを支えながら、異形へ力を放つ。しかし、それが届く前に異形たちは距離を取るようにさっと引いていった。
「はっ、あなたはすごいな」
無知なる者であるエラが近づくと、異形たちは追われた羊の群れのごとく逃げ去っていく。その様子に半ば呆れながら、エーミールはジークヴァルトの周りにいる異形たちを少しずつ遠ざけていった。
エラは訳も分からぬまま、エーミールの動きに翻弄され続けたのだった。