氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 そっけなく言ってジークヴァルトは周囲に目を向けた。リーゼロッテをリードしつつ、行く先の異形を(はら)っていく。戸惑うリーゼロッテはダンスを止めるわけにもいかず、言われるままステップを踏み続けた。

 そうこうしているうちに曲が終わり、リーゼロッテはジークヴァルトと向かい合わせになって礼をした。フロアがダンスの入れ替わりでざわつき始める。周囲を見回すと、まだ異形の者がふたりの周りを囲うようにしていた。

「あの、ジークヴァルト様。早くここを離れた方がよいのでは……」

 幾人かの紳士がリーゼロッテに近づいてくる。もしかしたら自分にダンスを申し込みに来るのかもしれない。それだけならジークヴァルトを理由に断ることもできるのだが、便乗(びんじょう)して異形の者が一緒に近づいて来くるのが目に入った。

「ヴァルト様……!」

 思わずジークヴァルトに身を寄せる。ダンスタイムでもないのに男性に抱き着くなど、はしたない行為だと言われても仕方ないが、リーゼロッテはそうするより何もできなかった。

 すぐそばまで来た紳士が声をかけたそうにしているが、リーゼロッテは不自然なくらいジークヴァルトの顔を凝視(ぎょうし)してそれに気づかないふりをした。気のせいであってほしいが、その紳士の肩には黒髪の女がだれんと背後から(おお)いかぶさっている。

(さ、貞子(さだこ)貞子(さだこ)がいるぅぅぅぅっ)

 長い黒髪をひと(ふさ)口にくわえた異形の女は、ちらっと横目で(うかが)ったリーゼロッテと目が合うと、にたぁと笑みをつくった。その手は愛おしそうに紳士の頬を()でさすっている。
 脳内でひぃぃっと悲鳴を上げつつ、リーゼロッテはジークヴァルトに(すが)りついた。

「問題ない」

 涙目のリーゼロッテをみやったジークヴァルトは、無表情のままリーゼロッテの少し乱れた前髪を指に(から)めながら()いていく。人前でも躊躇(ちゅうちょ)しないその指の動きに、リーゼロッテの頬が染まった。

 そんな様子に貞子を背負った紳士は諦めたように去っていった。今のやり取りが、ふたりの世界を作り上げたようだ。周囲の視線が痛いような気もするが、結果オーライと言うことにしておこう。

< 283 / 684 >

この作品をシェア

pagetop