氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 なぜすぐにわからなかったのか。赤毛に金色の瞳をした王族など、ディートリヒ王以外あり得ない。飛び上がるように驚いて、条件反射のように礼を取ろうとした。

「ああ、いいのよ。この人はただのバルバナス様だから」

 アデライーデにそう制されて、リーゼロッテはぽかんと赤毛の男を見上げた。

(ただの、ばるばなすさま……?)

 どこかで聞いた事がある名だ。こてんと首をかしげてから、リーゼロッテはすぐにその答えに行きついた。

王兄(おうけい)殿下(でんか)……!」

 慌てて一度はくずした礼の姿勢を再びとる。バルバナスはディートリヒ王の実兄(じっけい)だ。騎士団の総司令官であり、大公の地位につく紛れもない王族だった。

「ああ、いいっていいって。大公とは名ばかりで、まあ、好き勝手やらしてもらってるからな」

 そう言いながらバルバナスは腰を曲げてリーゼロッテにぐいと顔を近づけた。(あご)に手を当て、品定(しなさだ)めするようにまじまじとのぞき込んでくる。

「はあん? 話には聞いていたが本当にマルグリットそっくりだな」

 ふいにバルバナスに手を取られ、リーゼロッテは片手を高く持ち上げられた。そのままその場で一回転させられ、リーゼロッテのドレスがふわりと広がる。片足を(じく)にして、リーゼロッテはくるくるともう二回転させられた。

「ははは! どこから見てもマルグリットだ! イグナーツの要素がまるでない!」

 リーゼロッテをコマのように回転させて、バルバナスは心底たのしそうな笑い声を上げた。目を回しはじめたリーゼロッテがふらつくと、バルバナスは握る手に力を込めてその回転を止めさせた。

「龍の執念(しゅうねん)とは恐ろしい」

 打って変わった冷たい声音(こわね)が響く。金色の瞳に射抜かれて、リーゼロッテは不敬になることも忘れ、あからさまに(おび)えた表情をした。
 握られた手は痛くはないが、その冷たい指先に否応(いやおう)なしに緊張を()いられる。

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