氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
(たわむ)れはそれまでにしてください」

 ジークヴァルトに後ろから引き寄せられ、リーゼロッテの体はぽすりとその腕の中に収まった。安心感からか、体から一気に力が抜ける。

「ジークヴァルト……お前にまでそんな顔をさせるとは」

 そんな顔、と言われ、リーゼロッテはその腕の中でジークヴァルトの顔を見上げた。そこにいるのはいつもと変わらない無表情のジークヴァルトだったが、なんだか怒っているように感じられる。

「託宣はもはや呪いだな」

 吐き捨てるように言ったバルバナスの頭が、背後からすこん、と(たた)かれた。

「って」

 後頭部を押さえて振り向くと、たたんだ(おうぎ)を手にしたアデライーデが半眼でバルバナスを(にら)んでいる。

「おい、アデリー。そんな鈍器(ブツ)で上官を殴るやつがあるか。騎士ならば正々堂々と剣をふるえ」
「何が正々堂々よ。わたしの可愛いリーゼロッテに手を出しておいてぬけぬけと。か弱い令嬢に(おうぎ)ではたかれるくらいなんだっていうの。むしろ当然の(むく)いだわ」
「か弱い令嬢ねぇ」

 今度はまじまじとアデライーデを見やる。

「なっ!? こんな格好をさせられたのも誰のせいだと思ってるのよ! そもそもバルバナス様が」
「ああ、わかったわかった、オレが悪かった」

 面倒くさいというように、バルバナスは両手を上げた。

「ったく、姉弟そろって骨抜きにされやがって。……まあ、こんないたいけな可愛い娘ちゃん相手なら、そうなるのは分からなくもねーけどよ」

 バルバナスはリーゼロッテの頭に手を乗せて、かき回すように無造作(むぞうさ)になでた。リーゼロッテの頭が人形のようにぐりぐりと回る。
 途端(とたん)に体を奥に引かれ、気づくとリーゼロッテは、ジークヴァルトとアデライーデに(はさ)まれるように抱きこまれていた。

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