氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「ふたりしてそんな怖い顔すんなって」
「こんな顔になるのもバルバナス様のせいでしょう!?  ああん、もう、リーゼロッテの綺麗な髪がもうぐちゃぐちゃだわ」

 無言のジークヴァルトに対して、アデライーデは先ほどからバルバナス相手に言いたい放題だ。リーゼロッテはどうしたらいいかわからずに、抱きしめるふたりの顔を交互に見上げた。

「ああ、お前らはもう帰れ。どうせ先ほどの騒ぎも異形のしわざなんだろう? ディートリヒにはオレから言っといてやるから、さあ、とっとと帰った帰った」

 しっしと追い払いように手を動かす。

「じゃあ、お言葉に甘えて遠慮なく帰りましょう、リーゼロッテ」

 アデライーデが嬉々とした顔でそれに答える。

「ああ? いや、ちょっと待て。アデリー、お前は今日一日オレのそばにいる約束だぞ」
「今帰っていいって言ったじゃない」
「アデリーには言ってねえだろ。そもそもオレとの勝負に負けたお前が悪い。騎士ならば最後まで約束を守れって話だ」
「ちっ」
「あん? お前、今舌打ちしたろう? 王兄(おうけい)殿下(でんか)サマに向かって公爵令嬢ともあろうやつが」
「何よ、都合のいい時ばっかり令嬢扱いして! バルバナス様なんて、も げ て し ま え!!」
「ぬあっ、お前、股間がきゅんとするようなこと言うんじゃねえよ!」

 ぎゃんぎゃんと言い合うふたりを、リーゼロッテはぽかんとながめていた。その(すき)にジークヴァルトがリーゼロッテの乱れた髪を整えるように黙々と()いている。

「……いったい何のお話ですか」

 騎士団へ入ってからというもの、アデライーデの口は悪くなる一方だ。呆れたようなエマニュエルのため息は、しょうもない口げんかの中にかき消されていった。

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