氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 フーゴを悩ませるのは、もっと根深い問題だ。
 フーゴとクリスタに似ても似つかないリーゼロッテを見て、疑問を持つ者は多い。リーゼロッテが養子であることを伝えれば、それは問題ないのだが。
 リーゼロッテの容姿は、見る者が見たら、彼女がラウエンシュタイン家の血筋であると言うことは容易にわかる。そのことこそ問題だった。

 フーゴと同じ世代から上の貴族なら、マルグリットのことを知らぬ者はいないだろう。公爵令嬢だったマルグリットはその美しい容貌(ようぼう)もあって、社交界では常に話題の人物だった。
 その彼女に瓜二つのリーゼロッテが、なぜ縁もゆかりもない伯爵家の養子となったのか。

 ラウエンシュタイン家は、女公爵が代々当主を務めることで知られている。
 その跡取りと言える一人娘が、なぜ下位の家に養子に出されたというのか。しかもその養子縁組先で、王家によって嫁ぐ家まで決められている。

 極めつけは、ラウエンシュタイン家の当主が()()()()()()()()()()()ということだ。

 フーゴ自身、リーゼロッテの実親が亡くなったという話は聞かされていない。その証拠に、王家から毎年出される貴族(きぞく)名鑑(めいかん)には、今もマルグリットとイグナーツが、ラウエンシュタイン公爵家の当主とその伴侶として()っている。

 だがダーミッシュ家がリーゼロッテを養子に迎え入れる前後で、ふたりは社交界から忽然(こつぜん)と姿を消した。王家からそのことに関しての情報は何もない。
 知らされないと言うことは知る必要がない、いや、知るべきではないということだ。調べれば何か得られるかもしれないが、それは王家への背信(はいしん)を意味する。

 なぜリーゼロッテがダーミッシュ家に養子に出されたのか。
 フーゴはその問いに対する答えを持ちあわせていない。唯一分かっているのは、リーゼロッテが正真(しょうしん)正銘(しょうめい)ダーミッシュ家の人間であるということだけだ。
 今日、王の前でそれが認められたのだ。公然たる事実として、そこに口を挟まれる余地はない。

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