氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
(くだらない自己満足だな)

 アデライーデにした取り返しのつかない(あやま)ちも、いまだ何ひとつ償えないでいる。
 手の届く範囲にいる人間すらしあわせにすることもできない自分に、この国の王たる資格があるというのか。

(駄目だ。迷うな。これ以上自分の果たすべきものを()(あやま)ってはいけない)

 龍の指し示す道筋(みちすじ)辿(たど)らなければ、この国の行く(すえ)破滅(はめつ)しかない。それを知ってなお、子供のように駄々(だだ)をこねる自分を許容(きょよう)するわけにはいかなかった。
 ハインリヒは(こぶし)をきつく握りしめ眉根を寄せた。

「ディートリヒ王、クラッセン侯爵が今しがた到着なさいました」

 城仕えの者による耳打ちに、ハインリヒの鼓動(こどう)が跳ね上がる。

 とうとうその時が来た。
 だが、やるべきことはただひとつだ。この国の王太子としてあるべき形で接すればいい。例えアンネマリーに声掛けをすることになったとしても、先ほどのリーゼロッテへの言葉を繰り返せばいいだけだ。

 誰に対しても平等であればいい。それは今までやってきたこと。だから、これからもそうすべきだし、自分にはそれができるはずだった。

 クラッセン侯爵の名が呼ばれ、最後のデビュタントを招くための扉が開かれていく。
 ハインリヒは目をそらすことなく、すべてを受入れるべく長い絨毯(じゅうたん)の先を冷たく見やった。

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