氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 そんなアンネマリーの姿に、ハインリヒの視線はくぎ付けとなっていた。以前よりもほっそりとした肢体(したい)。それでいて柔らかな曲線は失われていない。
 純白のドレスから(あら)わになった白い肩、細すぎる腰と対比するように盛り上がる弾力のありそうな豊かな胸に、(えり)ぐりからのぞくその谷間。そして、谷間の上のなんとも絶妙な位置に輝く、一粒の紫のゆらめき。

(なぜあの石をアンネマリーが――)

 あの石は王妃に()われ、姉姫であるテレーズのために力を込めた守り石だ。しかもあれは、いくつもあった中でも、いちばん大ぶりのものだったはずだ。
 最も大きなその石に、ハインリヒは三日を要して力を注いだ。この石を持つものが、安寧(あんねい)に過ごせるようにと思いを込めて。

 アンネマリーは預けた懐中時計を手放した。それが彼女の出した答えなのだと、無理矢理にでも納得させたというのに。

「クラッセン侯爵令嬢、その意匠(いしょう)は特別に作らせたもの。気に入ってもらえたようね?」
「はい……王妃殿下……このように恐れ多いものを(たまわ)り……言葉もありません……」

 震える声でアンネマリーが答える。懸命に、絞り出したような声だった。

 ハインリヒは反射的に王妃を見た。驚いたように目を見開いた後、ぎりと歯噛みをしてその美しい横顔を(にら)みつける。

(――初めからそのつもりだったのか)

 イジドーラ王妃は涼しい顔のまま、目の前で礼をとるふたりに視線を向けている。

 アンネマリーはどんな気持ちで今ここに立っているのだろう。いや、あの青ざめた表情がすべてを物語っているではないか。ハインリヒはさらにきつく(こぶし)を握りしめた。

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