氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「不躾にも遅れてきた身。宴に水を差すのも心苦しく思いますので、ファーストダンスは辞退したく存じます」
トビアスの言葉に、アンネマリーも乞う様に頭を垂れた。この場を早く去りたいのは、アンネマリーも同じ気持ちだ。
「今宵は、生涯に一度きりのデビューの夜会。遠慮せずふたりで踊るといいわ」
王妃のその言葉に、トビアスとアンネマリーは同時に身を震わせた。一方は怒りで、もう一方は悲嘆にくれて。
王妃の言葉にダンスフロアが空けられる。誰もいなくなった広いフロアに、ふたりは王城の者によって導かれた。
周囲からひそひそと囁き声が漏れる。純白のドレスに王子の瞳と同じくする意匠を纏うアンネマリーは、大勢の好奇の目にさらされた。
あの首飾りが王太子から贈られた物ならばとんでもない大事件だが、王子の様子を見る限りそのようなことはなさそうだ。何しろ王子はクラッセン侯爵令嬢を目で追ってはいるが、その表情は睨みつけていると言ってよいものだった。
ならばあの宝飾は、侯爵家が自前で用意した物なのだろう。強欲でなんと愚かしいことか。王太子妃の座を得ようと娘に王子の色を纏わせ、結果、不興を買っているのだから。
――あれではまるで愛人の座を乞うているようだ。
アンネマリーの女性らしい体つきも相まって、貴族たちの間から密やかに嘲りの声が上がる。そんな中、ゆるやかに曲が流れだす。トビアスとアンネマリーは衆人が見守る中、ふたりきりのダンスフロアで手を取りあって踊りだした。
「すまん」
娘がさらし者になると分かっていて、それを回避ができなかった自分を詫びる。そんな父親にアンネマリーは泣きそうにながら、なんとかそれを堪えて顔を上げた。
「すべてわたくしが悪いのです。お父様にもお母様にもご迷惑をおかけしてしまって……」
「お前は何も悪くない。悪くなどあってたまるか」
父の吐き捨てるような言葉に、それ以上何も言えなくなる。こんな時でも体は動きを覚えているようで、なめらかにダンスは進む。
もう、なくすものなどないのだから。この国を去る春を思い、アンネマリーはただステップを踏み続けた。
トビアスの言葉に、アンネマリーも乞う様に頭を垂れた。この場を早く去りたいのは、アンネマリーも同じ気持ちだ。
「今宵は、生涯に一度きりのデビューの夜会。遠慮せずふたりで踊るといいわ」
王妃のその言葉に、トビアスとアンネマリーは同時に身を震わせた。一方は怒りで、もう一方は悲嘆にくれて。
王妃の言葉にダンスフロアが空けられる。誰もいなくなった広いフロアに、ふたりは王城の者によって導かれた。
周囲からひそひそと囁き声が漏れる。純白のドレスに王子の瞳と同じくする意匠を纏うアンネマリーは、大勢の好奇の目にさらされた。
あの首飾りが王太子から贈られた物ならばとんでもない大事件だが、王子の様子を見る限りそのようなことはなさそうだ。何しろ王子はクラッセン侯爵令嬢を目で追ってはいるが、その表情は睨みつけていると言ってよいものだった。
ならばあの宝飾は、侯爵家が自前で用意した物なのだろう。強欲でなんと愚かしいことか。王太子妃の座を得ようと娘に王子の色を纏わせ、結果、不興を買っているのだから。
――あれではまるで愛人の座を乞うているようだ。
アンネマリーの女性らしい体つきも相まって、貴族たちの間から密やかに嘲りの声が上がる。そんな中、ゆるやかに曲が流れだす。トビアスとアンネマリーは衆人が見守る中、ふたりきりのダンスフロアで手を取りあって踊りだした。
「すまん」
娘がさらし者になると分かっていて、それを回避ができなかった自分を詫びる。そんな父親にアンネマリーは泣きそうにながら、なんとかそれを堪えて顔を上げた。
「すべてわたくしが悪いのです。お父様にもお母様にもご迷惑をおかけしてしまって……」
「お前は何も悪くない。悪くなどあってたまるか」
父の吐き捨てるような言葉に、それ以上何も言えなくなる。こんな時でも体は動きを覚えているようで、なめらかにダンスは進む。
もう、なくすものなどないのだから。この国を去る春を思い、アンネマリーはただステップを踏み続けた。