氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
     ◇
 異様な雰囲気の中、ダンスを終えたクラッセン侯爵とその令嬢が、この場を退場しようとする。その様子をカイは間近で(なが)めやっていた。

(イジドーラ様も大胆(だいたん)なことをする)

 白の夜会で王妃が何がしかを(たくら)んでいるであろうことは承知していた。カイ自身、むしろそれを楽しみにしていたくらいだ。
 しかしこれでは、アンネマリーのこの国での未来は断たれたも同然だ。彼女にまともな縁談が舞い込むことはもはやないだろう。そう思うと、さすがに気の毒になってくる。

(まあ、そのためのオレってわけか)

 わざわざ自分に、誰のエスコートもせずに夜会に参加するように言ってきたくらいだ。こんな状況になることなど、王妃はお見通しだったろう。

「クラッセン侯爵、ご無沙汰(ぶさた)しております」

 人好きのする笑顔を浮かべ、カイはしれっと二人に近づいていく。()(もの)を扱うかのように遠巻きに見ていた貴族たちが一斉にざわついた。

 カイは王妃とつながっている。クラッセン侯爵もそれを承知しているだろうから、いい顔をされるはずはない。案の定、トビアスはカイを()(ころ)さんばかりに(にら)みつけてきた。

「これはデルプフェルト殿。わたしどもは急ぐので、失礼する」
「まあまあ、侯爵、そう言わずに。デビューのお祝いくらい言わせてくださいよ。アンネマリー嬢、今日はデビューおめでとう。しばらく会わないうちに、すごく綺麗になったね」

 王城にいた頃と変わらない態度と口調で、カイはアンネマリーに微笑みかけた。アンネマリーは戸惑いながらも淑女の礼を取る。

「ありがとうございます、カイ様……」
 だがそれ以上言葉は続かない。アンネマリーは一刻も早くこの場から逃げ出したかった。

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