氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「王妃殿下から贈られたその首飾り、とても似合っているね」

 カイはわざと大きな声でその台詞を言った。近くに噂好きで有名な夫人が、耳をそばだてるようにして立っている。それ以外の貴族たちの注目も集めるように、カイはわざとらしいくらいに大げさに手を広げて見せた。

「なんでもその首飾りは、王妃殿下自らがデザインしたそうだよ。まさにアンネマリー嬢のために作られた最高の意匠だね」

 カイのその言葉に、クラッセン侯爵令嬢が王妃のお気に入りであることが周知されていく。これで少しばかりはアンネマリーの名誉(めいよ)は回復するだろう。
 何せイジドーラ王妃は、破天荒(はてんこう)な行動をすることで有名だ。目の前の侯爵令嬢の出で立ちも、王妃の気まぐれの結果であるのもあり得る話だ。侯爵と言えど一介の貴族が王妃の命に逆らえるはずもない。アンネマリーへの嘲笑(ちょうしょう)は、次第に同情の視線へと変わっていった。

 その様子をトビアスは素直に喜べなかった。そもそも王妃がこんなものを贈りつけてこなければ、アンネマリーは何の(うれ)いもなくデビューを迎えることができたのだから。

「クラッセン侯爵、アンネマリー嬢を少しお借りしても?」

 五男(ごなん)と言えど、カイはデルプフェルト侯爵家の人間だ。多くの貴族が見ている前で、その申し出をはねつけることもできなかった。

「アンネマリー嬢、オレと一曲踊っていただけますか?」

 やわらかい物腰で手を差し伸べる。一瞬戸惑(とまど)ったアンネマリーは、不承(ふしょう)不承(ぶしょう)(てい)(うなず)く父を見てから、カイのその手を取った。それを合図にするかのように、明るいワルツが流れ始める。

 曲の始まりと共に、周囲にいた者たちも手を取りあってダンスに興じ始める。異様な雰囲気だったフロアも、先ほどと変わらず穏やかなものとなっていた。

「アンネマリー嬢、さっきも言ったけど本当に綺麗になったね」
「いえ、そのような……」

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