氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 実際にこのコンテストは、長く厳しい冬を迎える前の風物詩(ふうぶつし)的な庶民のイベントだった。総合優勝に該当者(がいとうしゃ)がないと、来年にキャリーオーバーされていくので、まさに夢ふくらむ平民の祭典なのだ。

(経済効果もハンパなさそうね……ああ、それにしても楽しそう……)

 カーテンの隙間からおいしそうな屋台が並ぶ一角が垣間(かいま)見える。道行く人々は、食べ歩きを楽しんでいるようだ。

 なかなか進まない馬車から、それを指をくわえてみているしかなかった。淑女として実際に指のなどくわえたりはしないが、もし食べ物の匂いが届いていたら、おなかの虫が鳴ってしまったかもしれない。
 貴族の食事はどれも高級でおいしいが、ジャンクフードの魅力を知っている身としては我慢しがたいものがある。

(王都に遊びに行けるよう、絶対にお願いしよう。食べ歩きは無理でも、どこかカフェとか入ってみたい……)

 エラと一緒にお忍びデートを楽しむのもいいかもしれない。なんとかジークヴァルトを説得しようと、リーゼロッテは決意を新たにした。

「あら?」

 道行く人ごみの中に、見知った人物がいたような気がしてリーゼロッテは声を上げた。
「どうかなさいましたか?」
「いいえ……何でもないですわ。知っている方がいたような気がして……きっと見間違いですわね」

 そうだ。あの人物が庶民の祭りのさなかに出歩くなどあり得ない。

(ピッパ王女がいたかもなんて、思い違いも(はなは)だしいわね……)

 見事な赤毛に、金色の瞳。雑踏(ざっとう)の中に、いつか王妃の離宮で会った王女殿下を見た気がした。
 見間違えた少女は、すでに人ごみに埋もれてしまった。

 馬車はゆっくりと動き出し、やがて混雑を抜けて軽やかに走り出す。その後は一度も止まることなく、馬車は公爵家へとたどり着いた。



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