氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
《我が国の王太子を侮辱(ぶじょく)なさるおつもりですか!?》
 思わずかっとなってアンネマリーは語気(ごき)を荒げた。

《侮辱も何も、そんな色の宝石をお前に(まと)わせて、独占欲の(かたまり)ではないか》
《これは……!》
《テレーズが懐妊(かいにん)したぞ》

 不意に耳元でそう言われ、口を開きかけたまま二の句が告げられなくなる。突然行き場を失くした怒りをうまく処理できない。

《せっかく気兼(きが)ねなく抱ける女を手に入れたというのに、腹の子に(さわ)るだ何だと、最近ではろくに触れることもできん。まったく(きょう)ざめもいいところだ》

 その言葉にアンネマリーは何かおぞましい物を見るような目で、アベル王子を見上げた。
 アベル王子は隣国に三人いる王子の中では、いちばんまともな人物だと思っていた。アンネマリーの目から見ても、常にテレーズを気遣い、王宮の陰謀(いんぼう)からも守る姿勢を見せていたのだ。

《いいな、その目……すごくそそられるぞ》

 再び耳元でそう言われ、アンネマリーの顔がかっと(しゅ)に染まる。それは可愛らしい恥じらいなどではなく、純然たる怒り(ゆえ)だった。

《早くアランシーヌに戻って来い。テレーズもお前に会えなくて寂しそうにしているぞ。……そうだな、アンネマリー。お前、オレの側妃(そくひ)になれ》
《本気でそのようなことをおっしゃっているのですか……!?》

 隣国アランシーヌの王族は側妃を持つのは当たり前のことと考えている。しかし、正妃(せいひ)であるテレーズのお腹に自分の子供がいるこのタイミングで、とても正気(しょうき)沙汰(さた)とは思えない。

《何を驚く? そうすればお前もこの国に(しば)られずに、テレーズのそばにずっといられるだろう? テレーズ共々かわいがってやる。光栄に思え。それに……》

 あの青二才の王太子よりもずっと気持ちいい思いをさせてやるぞ。アベル王子はそう付け加えて、アンネマリーの胸の谷間辺りをみやって(ほの)(ぐら)(わら)った。

 唇をわななかせて言葉を失ったまま、曲が終わりを告げた。

 だが、アベル王子はアンネマリーを拘束したまま離そうとしない。このままでは二曲続けてアベル王子と踊ることになる。
 アンネマリーは必死のその手を振りほどこうとした。

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