氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
(たわむ)れはここまでになさってください!》
《なんだ? いい考えだろう? お前はこのままアランシーヌへ連れていってやる》

 ふいにアンネマリーの手が後ろに引かれ、カイがふたりの間に割り込むように入ってきた。

「こんな強引なやりようがあなたの国の流儀(りゅうぎ)なのですか?」

 そう言うカイに表情はなく、その真意を測るようにアベル王子はカイを見た。アベル王子はこの国の言葉の心得はある。だからと言って自国語以外は話す気などないのだが。

《オレをアランシーヌの王族と知っての狼藉(ろうぜき)か? この国の貴族などひねりつぶすのは造作(ぞうさ)もないぞ》

 その台詞をアンネマリーに向けて言い放つ。それを聞いたアンネマリーはさっと顔を青ざめさせた。自分のせいでカイに迷惑が掛かってしまう。うまく切り抜けないと、国家間の問題にも発展しかねない。
 咄嗟(とっさ)に父の姿を探す。この場をうまく収められるのは、アベル王子の為人(ひととなり)をよく知る父意外いないだろう。

《アベル殿下、騒ぎは起こさぬ約束で我が国へにお連れしたはずです。それに夜会に参加する許可が王から降りたと聞いた覚えはありませんが?》
《ここへ来た目的はアンネマリーのデビュー祝いだと言っただろう。テレーズのかわりに大雪の中わざわざ来てやったんだ。そのように言われるいわれはない》

 騒ぎに慌ててやってきたトビアスが、苦虫を()(つぶ)したような顔になる。
 隣国を出立する直前にいきなりアベル王子が同行すると言い出したのだ。王にお(うかが)いを立てる(しょ)を送ったり、その返事を待つうちに天候が悪化したりと、いろいろと大変だったのだ。夜会に到着が大幅に遅れたのもそのせいだった。

 だがすぐに表情をあらため、アベル王子に向き直った。気持ちがすぐ顔に現れるようでは外交は務まらない。

《祝いの席ならば後程(のちほど)お時間をつくらせていただきます。今はお引きください。これ以上は外交問題となりますぞ》
《ふん、こんな北の小国、どうとでもなる》

 そう言ってアベル王子は強引にアンネマリーの腕を(つか)んだ。

《アベル殿下!》
 さすがのトビアスも声を荒げた。隣国でならともかく、自国での暴挙に素直に従うことなどできはしない。

「その手をお離しになってくださらないかしら?」

 いつの間にかあやしげな笑みをたたえたイジドーラ王妃が、すぐそこに立っていた。優雅な足取りでこちらの方へと近づいてくる。

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