氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
     ◇
 アンネマリーから目が離せなかった。

 彼女が広間を移動するにしたがって、その姿を求めハインリヒの視線も吸い寄せられるように後を追っていく。
 この壇上からはダンスフロアが隅々(すみずみ)まで見渡せる。そのがらんとしたダンスフロアで、アンネマリーは踊っていた。

 ――どうしてあそこで彼女と踊っているのが自分ではないのだろう

 彼女にとってのファーストダンスなのだから、父親と踊っているのは当たり前の事なのに、なぜだかハインリヒはそんなことを思った。

 だが、何を馬鹿なことをと、そこにある違和感に無理やり(ふた)をした。

 イジドーラ王妃のしでかしたことを考えると、彼女のこの国での未来は暗くつらいものになるだろう。まともな縁談は望めず、よくて老人の後妻に入るか、最悪、誰かの愛人の座に収まるか。
 醜聞(しゅうぶん)を抱えた未婚の令嬢の明るい未来はないのが貴族社会の常だ。恩を売られるように嫁いだ先で、幸せな未来が開けようはずもない。

 彼女は王太子である自分とは無関係なのだ。この口からそう言うことさえできたのなら。
 しかし王妃の暴挙(ぼうきょ)を王子である自分が攻め立てるわけにはいかない。

 そうなれば、かつて他の令嬢にしたように、良縁を()(つくろ)って男をあてがうか。

(アンネマリーに? 自分以外の男を?)

 自身のその考えにかっと頭に血が上った。

 あれほど自分を(いまし)め、決して揺らぐことがないようにと心に決めたのに。ハインリヒはこみあげる衝動でどうにかなりそうだった。

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