氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「オレはカイ。君は?」
「……ルチア」

 少女は少し躊躇(ちゅうちょ)してからその名を口にした。

「ルチア……いい名前だね」

 カイがそう言うと、少女、ルチアは少しうれしそうにはにかんだ。カイがもし少女の立場だったのなら、絶対に本名は明かさないだろう。しかしルチアの反応から見るに、彼女が告げた名前は嘘ではなさそうだ。

「ねえ、ルチア。君は道に迷ってたんでしょ? オレ、ここら辺、わりと詳しいんだ。よかったら案内するよ?」

 カイの言葉にルチアは手に持ったままだった紙をぎゅっと握りしめる。折り目が擦り切れて、今にもちぎれてしまいそうな古びた紙だ。

「うん? オレが信用できないなら仕方ないけど、このあとまた君に何かあったらオレの寝覚めが悪くなるんだけど」

 戸惑ったようなルチアは、まだカイを信頼しきれていないようだ。危機管理としては悪くない判断だ。

 そのとき不意にルチアのお腹が、ぎゅうぎゅるぎゅるぅと盛大な音を立てた。先ほどから通りにいい匂いが漂っている。昼時にはまだ時間はあるが、飲食店が仕込みを行っているのだろう。

 ルチアは真っ赤になって、慌てて自分の腹を押さえた。しかし、そのタイミングで再び腹の虫が鳴る。狼狽(ろうばい)したルチアがその場を逃げ出しそうになったので、カイは咄嗟(とっさ)にその手を掴んだ。

「ねえ、オレってさ、こう見えて結構いいとこの坊ちゃんなんだ」
「え?」

 突然のカイの台詞に、ルチアが戸惑ったように返事をした。

「あなたの身なりを見れば……それは、まあわかるけど……」
 だからなんだというようにルチアは怪訝(けげん)な顔をした。

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