氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 自分が社交界へデビューしたのちには、夜会などで王子と顔合わせる機会も出てくるだろう。侯爵家の令嬢として、それはどうあっても()けがたいことだ。
 それならば、いっそ隣国にとどまり、そこで骨をうずめてしまえばいい。

 アンネマリーは()せたまぶたをそっと閉じて、遠く王城の奥にある静かな庭を思った。

 あの庭で始まり、あの庭で終わったのだ。ふたりの思い出は、あの日、永遠に(こお)ってしまった。木漏(こも)()がやさしく揺れる、あの美しい庭の中で。

 不意に自室のドアをノックされ、アンネマリーは意識を戻した。慌てた様子の家令にせかされて、急ぎ母ジルケの元へと向かう。

 行った先の居間で待っていたのは、困惑(こんわく)気味(ぎみ)の母・ジルケの顔だった。

「お母様、一体何事ですか?」
「……イジドーラ様から、アンネマリーに贈り物が届いたわ」
「王妃様から……?」
「王女殿下の話し相手を務めた褒美(ほうび)だそうよ」

 立派な木箱に、王家の(いん)が押された手紙が添えられている。差し出された手紙をアンネマリーは、無言で開いた。流れるような美しい文字を読み終えて、その手紙を手にしたままおもむろに箱の(ふた)を開けた。

「――どうして」

 かすれた声が口から洩れる。青ざめた顔でアンネマリーはその場で立ちつくした。指が震えて、箱の蓋を戻すことすらままならない。

「イジドーラ様はなんといってきたの……?」

 (いぶか)()に問うたジルケは、アンネマリーの様子に(まゆ)をひそめた。不躾(ぶしつけ)行為(こうい)とは分かっていたが、アンネマリーの手から王妃の手紙を抜き取り、目を走らせる。

 そこにはピッパ王女の相手を務めたアンネマリーへのねぎらいの言葉と、褒美として王族の加護を込めた宝石を(たまわ)(むね)が書かれてあった。そして、必ずそれを身に着けて白の夜会に参加するようにと、半ば命令するかのように()めくくられていた。

「どうして……どうしてなの……」

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