氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「実はオレもここに用事があったんだ。きっと、ルチアとオレは運命で結ばれてるんだよ。だからさ、もう一緒に行こう?」

 そう言いながらもカイは探るようにルチアを見た。ほっとした表情をしたのも(つか)()、ルチアの顔は幾度(いくど)()かの胡乱(うろん)なものとなる。

「同じ場所に用事だなんて、まだそんな嘘を言うのね」
「うーん、嘘じゃないんだけどなー」

 困ったそぶりで思案した後、カイは店員に向かって銅貨をはじいた。

「ねえ、紙とペン貸してよ」

 何の前触れもなく投げ飛ばされたコインを器用にキャッチすると、店員は一度奥に引っ込んで、それからまた顔を出した。テーブルの上に羊皮紙(ようひし)と羽ペンとインク壺を置いてから、無言で去っていく。

「今から契約書作るからさ、ルチアはそれに納得したらサインして」
「え? 何よそれ」

 カイは紙を半分に切ると、さらさらと紙にペンを滑らせていく。同じ文面の紙が二枚出来上がると、ルチアにその紙を差し出した。

「はい、これは契約書。オレは今からダンのこんがり亭に行く。ルチアは荷物持ちね。こんがり亭につくまでオレの荷物を持つのがルチアの仕事。どう? 納得したら、二枚ともそこにサインして」

 ぽかんとしながらもルチアは紙を手に取って、文字に目を通していく。その途中で小さな唇がむっとへの字に曲がった。

「なによ、この『鬱陶(うっとう)しいほど前髪の長い栗毛のルチア』って」
「うん? だって、ルチアについてオレが知ってるのは目の前にいる君の姿だけだからね。他のルチアって名乗る()にそれ持ってこられると面倒でしょ?」

 カイはこの紙の最後に、フルネームで署名した。どこの誰とも知らない少女にそんな紙を手渡すのは、普通ではあり得ないことだ。

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