氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「ね、悪い話じゃないでしょ? 納得したらサインしてよ。荷物持ちしてくれたら、きちんと報酬も支払うからさ」
「でも、カイは荷物なんて何も持ってないじゃない」
「ああ、これこれ。ねえ、これ持って帰るから包んでくれる?」
カイはテーブルの上のサンドイッチを指さした後、遠くにいる店員に再び声をかけた。店員は面倒くさそうにサンドイッチの皿を下げると、すぐに紙袋に入れて戻ってきた。
「これくらい荷物だなんて呼べないわ」
「あー、オレ、いいとこの坊ちゃんだからさ、羽ペンより重いもの持ったことないんだよね」
その言いようにあんぐりと口を開けたルチアは、「いいわよ、サインすればいいんでしょ! でも、この報酬は多すぎるわ。この十分の一にして」と紙をカイに押し戻した。
「え? 遠慮せずもらっといてよ」
「いやよ。理由もなく大金は受け取れないわ」
「理由ならあるよ。オレはルチアに好かれたいんだ。だって運命の女の子に出会ったんだよ?」
「はあ? なによそれ。ばっかじゃないの!」
ルチアは奪うように紙を手に取ると、迷うことなく二枚の紙に自分の名前を書いた。その淀みのないペン先にカイの答えは決まる。
(訳あり、確定か)
正確に文字が読めて書けもする。文面の途中に変な表現を入れたのは、ルチアがきちんと文字が読めるのか確かめるためだ。ルチアは一言一句間違わずに、カイの書いた契約書を読んで見せた。
この国では、浮浪児の一歩手前の少女にはあり得ないことだ。ルチアはきちんとした教育を受けている。それは明らかだった。食事の仕方を見てもそれは疑いようもない。そんな子供が教会に助けを求めれば、容易に里親先がみつかるだろう。
なのにそうしないのは、やはり今も誰か大人のそばにいるからなのだろう。日に向かって生きていけないような、そんな大人と。
だが、カイが一生ルチアの面倒見てやることもできはしない。そうする義理もなければ、そうする気もカイには微塵もなかった。自分と出会ったことなど、少女の日常の中にすぐに埋もれて消えるはずだ。
行く先があそこならば、その後は彼にまかせればいい。文句を言いつつ、面倒見のいい男だ。大方どこかで後ろ暗い人間と知り合って、何かあったら力になると安請け合いでもしたのだろう。その結果、ルチアは今そこに向かっているのだ。
そう結論づけると、カイは紙を片手に立ち上がった。
「でも、カイは荷物なんて何も持ってないじゃない」
「ああ、これこれ。ねえ、これ持って帰るから包んでくれる?」
カイはテーブルの上のサンドイッチを指さした後、遠くにいる店員に再び声をかけた。店員は面倒くさそうにサンドイッチの皿を下げると、すぐに紙袋に入れて戻ってきた。
「これくらい荷物だなんて呼べないわ」
「あー、オレ、いいとこの坊ちゃんだからさ、羽ペンより重いもの持ったことないんだよね」
その言いようにあんぐりと口を開けたルチアは、「いいわよ、サインすればいいんでしょ! でも、この報酬は多すぎるわ。この十分の一にして」と紙をカイに押し戻した。
「え? 遠慮せずもらっといてよ」
「いやよ。理由もなく大金は受け取れないわ」
「理由ならあるよ。オレはルチアに好かれたいんだ。だって運命の女の子に出会ったんだよ?」
「はあ? なによそれ。ばっかじゃないの!」
ルチアは奪うように紙を手に取ると、迷うことなく二枚の紙に自分の名前を書いた。その淀みのないペン先にカイの答えは決まる。
(訳あり、確定か)
正確に文字が読めて書けもする。文面の途中に変な表現を入れたのは、ルチアがきちんと文字が読めるのか確かめるためだ。ルチアは一言一句間違わずに、カイの書いた契約書を読んで見せた。
この国では、浮浪児の一歩手前の少女にはあり得ないことだ。ルチアはきちんとした教育を受けている。それは明らかだった。食事の仕方を見てもそれは疑いようもない。そんな子供が教会に助けを求めれば、容易に里親先がみつかるだろう。
なのにそうしないのは、やはり今も誰か大人のそばにいるからなのだろう。日に向かって生きていけないような、そんな大人と。
だが、カイが一生ルチアの面倒見てやることもできはしない。そうする義理もなければ、そうする気もカイには微塵もなかった。自分と出会ったことなど、少女の日常の中にすぐに埋もれて消えるはずだ。
行く先があそこならば、その後は彼にまかせればいい。文句を言いつつ、面倒見のいい男だ。大方どこかで後ろ暗い人間と知り合って、何かあったら力になると安請け合いでもしたのだろう。その結果、ルチアは今そこに向かっているのだ。
そう結論づけると、カイは紙を片手に立ち上がった。