氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「んー? ルチア、大事な用事があったんじゃないの?」

 カイがルチアを包み込むように後ろから抱きしめて、その頭の上に(あご)を置いた。はっとしたルチアは、頭を押さえてカイの腕から乱暴に逃れると、胸に抱えていた紙袋をカイに押し付けた。

「荷物持ちはここで終わりよ」
 そのままくるりと向き直ると、意を決したようにルチアはダンのいる厨房へと目を向ける。

「あ、あの、ここにゲオって人はいますか? アニサの娘が来たって伝えてほしいんです」
「へ? ゲオ?」

 間抜けな声を出したのはカイだ。

「ああ、彼はまだ山から帰ってきていませんぜ」
「いつ頃戻ってきますか? わたし、母さんに言われて来てて」
「今日かもしれやせんし、一週間待っても戻って来ないかもしれやせんね。旦那は毎年、雪解けとともに出て行って、冬になるとふらりと帰ってくるんでさぁ。帰ってこなかった冬は一度もありやせんが、今年は特に遅いかもしれやせんね」
「そんな……」

 こわばった声でそう言った後、ルチアはダンに詰め寄った。

「何かあったらここを頼るように母さんに言われてるの! 今、母さん、病院にいて、でもお金がなくて、もう出ていかなきゃならなくて、一度家に戻ったら別の人が住んでて、大家さんにどうせもう戻ってこれないだろうからって言われて、わたし、わたし……っ」

 嗚咽(おえつ)をこらえながらルチアは言葉を詰まらせた。ダンは手を止めて黙ってその様子を見つめている。

「どうして教会を頼らないの? 医者にはかかれなくても、母さんだって温かいベッドで眠れるはずだよ?」

 そういう制度があると知らない子供がいるかもしれない。カイは静かに問うてみた。しかし、ルチアは動揺したように首を振った。

「教会はだめ! 絶対にだめ!」
「どうして? 温かい食事だってもらえるよ?」
「だめ、だめなの、だって母さんが……!」

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