氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
(異形のことを思うと、ほいほい招待を受けるわけにはいかないものね)
 残念に思いつつも、そこは諦めの境地で受け入れているリーゼロッテだ。

 不意に横から「あーん」と菓子が差し出され、リーゼロッテは条件反射のようにそれを口にした。それから、迷いなくテーブルの上にある一口大のクラッカーを手に取り、それをそのまま隣に座ったジークヴァルトの口元へと持っていく。

「ヴァルト様、あーんですわ」

 ジークヴァルトも何も言わずに唇を開き、リーゼロッテは慣れた手つきでそれを口の中に押し込んだ。お互いにモグモグしながら見つめ合う。この一連の流れ作業に、リーゼロッテはもう慣れてしまった。

「リーゼロッテ様……今、異形を浄化されていましたよね?」

 紅茶をテーブルの上に置きながら、マテアスが驚いた声で聞いてくる。その問いにリーゼロッテは一度視線をさ迷わせてから、毅然(きぜん)とした態度でマテアスにきっぱりと返した。

「いいえ、あれは浄化ではないわ。あの子が自発的に天に(かえ)っただけよ」
「え? ですが、あれはどう見ても……」

(まずいわ。あれを浄化と認めてしまうと、ヴァルト様に止められてしまうかも)

 心配性のジークヴァルトが、一度却下したことを撤回(てっかい)することはまずあり得ない。リーゼロッテはなんとかそれだけは()けようと、もう一度マテアスに向かって強めに言った。

「いいえ、あの子は自分で天に還ったの。だって、わたくし、浄化の力は使っていないもの」

 リーゼロッテはいつもやっているように、小鬼の瞳をきゅるんとさせる程度にしか力を使わなかった。いや、使ったというより、自然と(あふ)れ出るものをそっと振りまいただけだ。それ以上のことは何もしていない。

 そんなリーゼロッテの(かたく)なな態度に、マテアスは戸惑った。リーゼロッテはずっと異形の浄化をしたそうにしていた。(つね)日頃(ひごろ)、マテアス達が行う浄化とはまったく異質な方法だったが、異形は確かに浄化されたのだ。それをよろこぶでもなく、むしろあれは浄化ではないと言い張るリーゼロッテの真意が測れない。

「あれは浄化じゃないもの」

 もう一度ぽつりと言って、リーゼロッテはその瞳にもりもりと涙をためだした。小さな唇をへの字に曲げて、ふるふると震わせている。

< 348 / 684 >

この作品をシェア

pagetop