氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 浄化にまで至ったのは今日が初めての事だったが、ドロデロの異形たちは、そうなる前はみなちゃんと人として生きていたのだ。そのことを異形自身が思い出すと、少しずつ会話が成り立っていく。

 自分の身から溢れる力は、異形たちの苦痛を取り除けるようだった。だから、リーゼロッテは小鬼たちの思いに寄り添い、根気よくその声に耳を傾けた。

 そんな日々を繰り返していたある日、リーゼロッテはふと思い出したのだ。王城でハインリヒ王子が、浄化とは異形を正しい方へ導くものだと言っていたことを。

(カイ様はねじふせるとおっしゃっていたけれど……)

 ジークヴァルトは「もっと明るい方へ」とそう言っていた。苦しみもがいている異形を前に、リーゼロッテはそれならば自分にもできるかもしれないとそう思った。

 王城で、たくさんの異形たちが天に還っていったあの日のことを思い出す。自分は眠りについて夢を見ていただけだったが、みなが天に還っていく感覚は、なんとなくこの身に残っている。

 リーゼロッテはジークヴァルトのように、颯爽(さっそう)と異形を(はら)うことにあこがれていた。だが、多分、自分が求めるものはあれではないのだ。そのことをリーゼロッテは先ほど強く確信した。

「わたくしにできることなど(たか)が知れております……ですが、少しでもあの子たちの苦しみを、取り除いてあげたいのです……」

 そう言いながらも嗚咽(おえつ)が止まらない。なぜこんなに涙が止まらないのか、正直自分でも理解できない。リーゼロッテは昔から涙もろい。お前泣けば何でも許してもらえると思ってるだろうというような、女子に嫌われる女子の典型のようで、正直、自分でもどうかと思うのだ。だが、ゆるんだ蛇口(じゃぐち)のように、今日のリーゼロッテは自分でも涙が止められなかった。

(さっきの異形のこころに感化されているのかも……)

 そう冷静に思ってみるものの一向に涙は止まらず、リーゼロッテは手にしたハンカチをぎゅっと握りしめた。

 不意に頬に何かを押し付けられた。冷たい感触に驚いて目の前を見やると、ジークヴァルトが無表情で、小瓶(こびん)を頬に押しあてている。(またた)きと共にリーゼロッテの頬に涙が伝うと、その涙は小瓶の中に(すべ)り落ちていった。

「じ、ジークヴァルト様……?」

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