氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 ぱしぱしと瞬きするたびに、小瓶に涙がたまっていく。八割がた瓶にたまるとジークヴァルトはそれを持ち上げ、周囲できゃっきゃと跳ねまわっていたきゅるるん小鬼に向かって、おもむろに中身の涙を振りかけた。

 はしゃぎまわっていた小鬼の数匹が、そのテンションのままふわっと浮き上がり、そのまますうっと溶けていく。異形が消えたその場に、楽し気な小鬼の笑い声だけが残像のように響きわたった。

「……お前、便利だな」

 その様子をぽかんと見つめていたリーゼロッテに向かって、ジークヴァルトが(なか)ば呆れたように言った。ひぐっと鼻をすすったのを最後に、リーゼロッテの涙がぴたりと止まる。

(い、言い方ァ……!)

 言い返せないままのリーゼロッテからハンカチを取り上げて、ジークヴァルトは代わりに涙の入った小瓶を握らせた。そのまま頬に残る涙を、ハンカチでやさしくぬぐっていく。

「何かあったときのためにそれは持っていろ」

 小瓶の中に半分ほど残った涙がちゃぷりと揺れた。透明なはずの涙が、揺らめくたびにほのかに緑を帯びる。不思議に思って小瓶を軽く揺すっていると、目の前にさらに数本の空の小瓶が差し出された。

「泣くたびに()めておけ」

 真顔でそう言われ、リーゼロッテは思わずジークヴァルトの顔を見返した。

「涙など、そうそう出るものではありませんわ」
「……普通ならばな」

 普段から泣きすぎている自覚のあるリーゼロッテは、反論する言葉が見つからない。再び出そうになる涙をこらえてぐっと唇を()むと、ジークヴァルトの指がその唇に触れて「噛むな、傷がつく」ときつく結ばれたその唇をそっと(ほど)けさせた。

(また子供扱いだわ)

 臆面(おくめん)もなくこんなふうに触れてくるジークヴァルトにも慣れてしまった。いちいち動揺するのも馬鹿らしく感じる今日この頃だ。

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