氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「あっ、ヴァルト様!」

 思わず非難めいた声が出る。ジークヴァルトがそのハンカチを(ふところ)にしまおうとするのを制して、リーゼロッテは慌ててその(はし)っこを(つか)んだ。

「このハンカチは、昔わたくしが贈ったものですわよね。大事に使ってくださって、とてもうれしいのですが……その、今見ると、刺繍の出来栄(できば)えがよくなくて、とても恥ずかしいので、こちらは返していただいてもよろしいですか?」
「いやダメだ」

 ハンカチをふたりで引っ張り合う。ウサギが伸びて痛そうだ。しばしの攻防の末、勝利を勝ち取ったのはジークヴァルトの方だった。

「あっ、ダメですわ。かわりに新しいものを差し上げますから、そちらは返してくださいませっ」
「いや、これはオレがもらった物だ。これの所有権はオレにある」
「ですがそれはジークフリート様に……!」

 そこまで言ってリーゼロッテはしまった、という顔をした。それを見たジークヴァルトはふっと鼻で笑う。

「これは父上に贈ったものだからか?」
「え……?」

 ジークヴァルトは知っていたのだろうか? リーゼロッテが言いあぐねていると、マテアスが笑顔でおかわりの紅茶を差し出してきた。

「そのハンカチはフーゲンベルク公爵に対して贈られたものです。ですので、旦那様が爵位(しゃくい)をお()ぎになられた時に、そのハンカチも先代から相続なさったのですよ」

 リーゼロッテはぽかんと口を開けた。ハンカチを相続するなど意味が分からない。価値があるものならばともかく、自分が刺繍したウサギのハンカチだ。

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