氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
そんな様子のリーゼロッテにマテアスは苦笑いを向ける。
(ヴァルト様がこのハンカチ欲しさに、公爵位を継ぐ日を心待ちにしていたなどと、リーゼロッテ様には思いもよらないのでしょうねぇ)
父親がもらったハンカチを、ジークヴァルトはそれはそれはうらやましそうに目で追っていた。ジークフリートは折角リーゼロッテがくれたのだからと、しばらくそのハンカチを使っていたのだが、あまりにもジークヴァルトが物欲しそうな顔をしていたので、爵位を継ぐときにそれを譲る約束をしたのだ。
さすがにすぐあげてしまうのは、リーゼロッテに申し訳ないと思ったのだろう。その間にジークヴァルトが忘れてしまうならそれでいいと、リーゼロッテのハンカチは約束の日まで大事にしまわれることになったのだ。
しかしジークヴァルトがその約束を忘れることは決してなかった。十五歳の誕生日に手に入れたそのハンカチを、ジークヴァルトが飽きもせずにずっとずっとずっと眺めていたあの日のことを、マテアスは今でもよく覚えている。
どんなに高価な物を贈られても表情ひとつ動かさなかったジークヴァルトが、初めて自分から望んだものだった。ジークヴァルトにはその自覚はないようだったが、子供の頃に一度会ったきりの婚約者への執着が、マテアスの目には不思議に映ったものだ。
「ですがやはり出来栄えが……」
「いや、オレはこのカエルの刺繍が気に入っている」
「か、カエル!?」
「なんだ? やはりブタだったのか?」
「ぶっ!? ブタでもカエルでもございませんっ! その刺繍はウサギですわ! だって長い耳がございますでしょう!?」
そう言われてジークヴァルトは手にしたハンカチの刺繍をじっと見つめた。
「……何にせよ、味がある刺繍だ」
「ウサギに見えないのなら、そうとおっしゃればよろしいですわ! もう返してくださいませ!」
リーゼロッテが腕を伸ばすと、ジークヴァルトが手の届かない高さにハンカチを持ち上げる。届きそうで届かない位置に、リーゼロッテはつま先立ちで懸命に手を伸ばした。
「うん、なんだか順調に親睦を深めてるみたいで何よりです」
不意にすぐそばから声をかけられる。ジークヴァルトにしがみつくように手を伸ばしていたリーゼロッテは、そのままの体勢でその声の主の方へ顔を向けた。
(ヴァルト様がこのハンカチ欲しさに、公爵位を継ぐ日を心待ちにしていたなどと、リーゼロッテ様には思いもよらないのでしょうねぇ)
父親がもらったハンカチを、ジークヴァルトはそれはそれはうらやましそうに目で追っていた。ジークフリートは折角リーゼロッテがくれたのだからと、しばらくそのハンカチを使っていたのだが、あまりにもジークヴァルトが物欲しそうな顔をしていたので、爵位を継ぐときにそれを譲る約束をしたのだ。
さすがにすぐあげてしまうのは、リーゼロッテに申し訳ないと思ったのだろう。その間にジークヴァルトが忘れてしまうならそれでいいと、リーゼロッテのハンカチは約束の日まで大事にしまわれることになったのだ。
しかしジークヴァルトがその約束を忘れることは決してなかった。十五歳の誕生日に手に入れたそのハンカチを、ジークヴァルトが飽きもせずにずっとずっとずっと眺めていたあの日のことを、マテアスは今でもよく覚えている。
どんなに高価な物を贈られても表情ひとつ動かさなかったジークヴァルトが、初めて自分から望んだものだった。ジークヴァルトにはその自覚はないようだったが、子供の頃に一度会ったきりの婚約者への執着が、マテアスの目には不思議に映ったものだ。
「ですがやはり出来栄えが……」
「いや、オレはこのカエルの刺繍が気に入っている」
「か、カエル!?」
「なんだ? やはりブタだったのか?」
「ぶっ!? ブタでもカエルでもございませんっ! その刺繍はウサギですわ! だって長い耳がございますでしょう!?」
そう言われてジークヴァルトは手にしたハンカチの刺繍をじっと見つめた。
「……何にせよ、味がある刺繍だ」
「ウサギに見えないのなら、そうとおっしゃればよろしいですわ! もう返してくださいませ!」
リーゼロッテが腕を伸ばすと、ジークヴァルトが手の届かない高さにハンカチを持ち上げる。届きそうで届かない位置に、リーゼロッテはつま先立ちで懸命に手を伸ばした。
「うん、なんだか順調に親睦を深めてるみたいで何よりです」
不意にすぐそばから声をかけられる。ジークヴァルトにしがみつくように手を伸ばしていたリーゼロッテは、そのままの体勢でその声の主の方へ顔を向けた。