氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「はい、アデライーデ様とご一緒の時にお会いいたしました」

 リーゼロッテのその言葉に、ウルリーケがはっとした様子でこちらを見た。リーゼロッテは何かまずいことを言ったのかと、無言でその顔を見つめ返した。

「アデライーデは……元気にしているのね?」
「はい、とても。わたくしもアデライーデ様にはよくしていただいて……」
「そう。ならいいわ」

 温室の外の雪景色を眺めながら、ウルリーケは静かに言った。その姿は、女帝という強い存在には(ほど)(とお)い。リーゼロッテの目には、ひとりのさびしい年老いた女性に映った。

 ふとウルリーケの手が細かく震えているのが目に入る。その指先に黒いモヤがまとわりついていた。それは、異形の者というより、異形の残り()のような影で、ひどく薄汚れた重たいものだ。

「グレーデン様……」
「ウルリーケとお呼びなさい。許します」

 鷹揚(おうよう)に言われ、リーゼロッテは臆することなく、できる限り親し気に微笑んだ。

「ありがとうございます、ウルリーケ様。お言葉に甘えさせていただきますわ。……あの、よろしければ、ウルリーケ様のお手に触れてもかまいませんか?」
「ふん、医者の真似(まね)(ごと)でもしようと言うの?」

 ウルリーケにも自分の手のモヤが見えるのだろう。馬鹿にしたような言葉を乗せるが、ウルリーケは自ら手を差し伸べてきた。

 リーゼロッテは椅子から立ち上がり、ウルリーケのそばへと近づいた。手を取る前に軽く礼をとってから、シワの刻まれたやせ細った手を自身の手のひらで包み込む。
 ひやりと冷たい指先に、リーゼロッテはそっと自身の力を振りまいた。いつもより、ほんの少しだけ意識を傾けて力を流す。

 あたたかなその感覚にウルリーケは(わず)かだが目を見開いた。常に感じていた不愉快な手のしびれが、嘘のように消えていく。リーゼロッテが手を離した後も、その心地よい熱は残されたままだった。

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