氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「お前はマルグリットとはまるで正反対ね。似ても似つかない」

 先ほどと真逆の言葉を口にする。鼻で笑うようなしぐさがエーミールにそっくりだ。いや、エーミールがウルリーケに似ているというべきなのだろう。

「わたくし、母の思い出はほとんど持ち合わせておりません。ウルリーケ様、よろしければ母のことを、お話しくださいませんか?」

 リーゼロッテはスカートが汚れることも(いと)わず、ウルリーケのそばで(ひざ)をついた。そのままウルリーケの膝の上へと手を乗せる。

 よく見ると、ウルリーケのいたるところにモヤがまとわりついていた。ウルリーケもその手を払いのけるでもなく、リーゼロッテの好きにさせている。それを見て取り、リーゼロッテは遠慮なく丹念に黒いモヤを(はら)っていった。

「ふん。あの(むすめ)のことなど思い出したくもない。とにかく生意気な令嬢だったわ。わたくしの言うことなどまるで聞きもしない」
「まあ、そうだったのですね。いけないお母様ですわ」

 見上げるように微笑んで、リーゼロッテは小首をかしげた。大方のモヤを祓い終わると、手の震えが幾分か小さくなっている。ウルリーケも少しは楽になったようだ。

 おそらく異形の存在を知らなかった頃のリーゼロッテと同じような状態なのだろう。日常、体に重みを感じていた日々を思い出す。ウルリーケはモヤが視えても、祓う力がないのかもしれない。だが、視える分だけ、鬱陶(うっとう)しいことこの上ないのではないだろうか。

 ふと思って、リーゼロッテはカイから渡されたジークヴァルトの守り石を取り出した。

「こちらがあれば、しばらくモヤは寄って来られないと思いますわ」
「それはお前の物でしょう?」
「いえ、わたくしが頂いた物ではないのですが……」

 返答に困り、リーゼロッテは曖昧にほほ笑んだ。後でジークヴァルトに言えば、許してくれるに違いない。

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