氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「イルムヒルデ様にフリードリヒ様。ディートリヒ王にバルバナス様。そして、ハインリヒ王子。当時後宮では、この方たちが過ごしていらっしゃったわ。……だけれど、あそこにはもうひとり王族がいたの。お前は子供だったから知らないだろうけれど」

 それを聞いてカイが記憶を巡らせる。ルチアが生まれたのは十三年前。それ以降に亡くなった王族の存在を思い出す。フリードリヒが逝去(せいきょ)した後、イルムヒルデが後を追うように亡くなった。確かその数年後に、この世を去った王族がいたはずだ。

「まさか、ウルリヒ・ブラオエルシュタイン……?」

 ウルリヒは前王フリードリヒの叔父だ。しかしウルリヒは亡くなったとき、すでに八十を半ばは超えていた。アニータが身籠った時、ウルリヒはどう考えても七十代だろう。

「ふふ、ふふふ、お前は賢い子ね。忌み子でさえなかったら、デルプフェルト家は唯一(ゆいいつ)正妻の子であるお前が跡目(あとめ)を継いだでしょうに。本当にもったいないこと」

 カミラの言葉を無視して、カイは話を戻すように問うた。
「お年を考えて、ウルリヒ様が父親だとは信じがたい話ですね」

「あら、お前は知らないの? あの方の奔放(ほんぽう)さには王家は苦労なさっていたもの。いくつになっても無節操に子種を振りまくものだから、最終的には後宮の奥深くに幽閉されたのよ。おかしいでしょう?」

 カミラは本当に愉快そうにころころと笑った。

「通いで後宮に来ていたわたくしと違って、アニータはずっとあそこにいたんだもの。きっと隙をつかれて襲われでもしたんじゃないかしら」
「そのことをイルムヒルデ様はご存じだったのですか?」

 当時、アニータといちばん時間を共にしていたのは彼女だったろう。後宮のような閉ざされた場所で、身籠ったアニータをイルムヒルデが気付かないとは思えない。

「ええ、ご存じだったわ。だって、アニータを逃がしたのは、イルムヒルデ様ご本人ですもの」
「イルムヒルデ様が……!?」

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