氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 いつも使わせてもらっている部屋も客室ではなく、公爵家ではリーゼロッテの部屋と認識されていた。リーゼロッテはすっかり若奥様(わかおくさま)ポジションを確固(かっこ)たるものにしているのだか、本人にその自覚はまったくない。

 しばらく行くと廊下の途中で書類を抱えたマテアスに出くわした。

「リーゼロッテ様、お帰りなさいませ」

 ジークヴァルトの従者であるマテアスは、王城勤めに忙しい主人に代わり、公爵領の政務のほとんどを(にな)っている。未来の家令(かれい)だけあって、マテアスも相変わらず忙しそうだ。

「お出迎えもできずに申し訳ありません」
「マテアスは忙しいのですもの。わたくしのことは二の次でかまわないわ」
「いいえ、そのようには……。リーゼロッテ様を最優先させるようにと、わたしどもは旦那様より仰せつかっております。ですので、リーゼロッテ様はご遠慮なさらず何なりとお申し付けください」

 やわらかく腰を折られて、リーゼロッテは困ったように微笑んだ。

「無理ばかり言っては申し訳ないわ……」
「無理などではございませんよ。わたくしどもはリーゼロッテ様にお仕えすることに至上のよろこびを感じておりますから」
「でも……ジークヴァルト様は、無理をしておいでなのではないかしら……。先ほども登城の予定があるのに、わたくしの到着を待っていたようだったから……」
「ああ、あれは決して無理などでは……むしろ、旦那様自ら望まれて、リーゼロッテ様をお待ちだったのです。ですからそのようにリーゼロッテ様が、気に()まれる必要などございませんよ」

(今日のヴァルト様は朝からずっとそわそわしっぱなしで、まったく使いものになりませんでしたからねぇ)

 表情は変わらないくせに、自分の(あるじ)の行動は単純でものすごくわかりやすい。ことさらリーゼロッテに関して言えば。

「ですが……」
「マテアスの言う通りでございます。リーゼロッテ様……どうかこれまで通り、旦那様の思うようにやらせていただけないでしょうか」

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