氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 いつの間にか隣で浮いていたジークハルトが、あぐらのままのんきに頭の後ろで手を組んでいる。宙を見上げてぽかんとしているリーゼロッテに、カイが(いぶか)し気な顔を向けた。

「リーゼロッテ嬢?」
「いえ、ジークハルト様が、ヴァルト様はもうこちらにいらしていると……」

 そのタイミングで、ばあんと部屋の扉が開け放たれた。その音でエラが驚いて飛び起きる。

 扉を開けた主は、想像通りジークヴァルトだった。息を乱して雪まみれだ。その後ろから、カークがおろおろしながら部屋の中を覗き込んでいる。
 濡れた外套(がいとう)をそこらへんに放り投げると、ジークヴァルトは(けわ)しい顔つきのまま、つかつかとリーゼロッテの前まで無言で歩み寄った。

 慌てて立ち上がったリーゼロッテを性急に引き寄せる。ジークヴァルトは自身の力を、前触れもなくリーゼロッテめがけて一気に解き放った。

「ふひあっ」

 よくわからない声がリーゼロッテの口から漏れる。その瞬間、ジークヴァルトの力が、体の内に、外に、急速に駆け巡ったのだ。その上、物理的にもぎゅうぎゅうと抱きすくめられて、リーゼロッテは息苦しさのあまりにジークヴァルトの服をぎゅっと握りしめた。

「ヴァルト様、苦しいです……!」

 はっとして、ジークヴァルトはその腕を緩めた。(わず)かに空いた隙間から、リーゼロッテが大きな瞳で見上げてくる。

「わたくし、大丈夫です。カイ様がいてくださいましたから……。ご心配おかけして申し訳ありません」

 公爵領から雪の中、馬で駆けつけてくれたのだろう。カークが知らせたのか、ジークハルトが知らせたのかはわからないが、またいらない迷惑をかけてしまった。

 しょんぼりしていると、ジークヴァルトはそんなリーゼロッテを無言で抱き上げ、そのままソファへと腰かける。(ひざ)にリーゼロッテを乗せたまま、守り石がなくなった髪飾りをそっとその髪から引き抜いた。
 その後、まとめた髪に刺されている何本ものピンを、一本一本丁寧(ていねい)に抜き取っては、ジークヴァルトはそこら辺の床に放り投げていく。

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