氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 はっとして顔を上げる。泣き虫ジョンのことが頭をよぎった。ひどいことをしないでほしいと、そう王子に懇願したくなる。しかしそんな我儘が通るはずもないだろう。

「王子殿下の仰せのままに……。お心、感謝いたします」

「言っても問題ないだろう?」

 突然ジークヴァルトが口を開いた。ハインリヒが何の話だというように訝し気な顔をする。
 この面子(めんつ)が顔を合わせたとき、ジークヴァルト自らが話題を振ることはまずなかった。大概はカイとリーゼロッテがおしゃべりをしていて、横でそれを黙って聞いていることがほとんどだった。

「ダーミッシュ嬢が、侍女に事情を話したいと望んでいる」
「侍女に?」

 ハインリヒが首をかしげた。目の前に王子がいるのに、ジークヴァルトを通してお願いするなど、何もできない子供のようだ。リーゼロッテは慌てて言葉を付け足した。

「わたくしの侍女、エラ・エデラーでございます。エラが無知なる者だということは存じております。ですがどうしてもわたくし、エラにだけは本当のことを話しておきたくて……」
「ああ、そういうことか。かまわないよ」

 あっさりとハインリヒにそう返されて、リーゼロッテは拍子抜けした顔になる。

「託宣にまつわることは龍次第だけど、異形に関することなら誰に話しても問題ないよ。ただ、告げるのは信頼のおける者だけにしたほうがいい」
「異形の者のことは、相手を選ばないと狂人扱いされますからねー。まあ、エラ嬢なら大丈夫でしょ。それにしてもリーゼロッテ嬢、今まで律儀に黙ってたんだ」
「王子殿下に家族にも他言無用と言われておりましたので……。わたくし、龍の目隠しの存在もつい最近知りました」 

 その言葉にハインリヒが苦笑いをした。

「ああ、リーゼロッテ嬢は知らなくて当然か。自分の常識がみなも当然と思うのは危険だな。それにしてもジークヴァルト、きちんとした知識を教えるのもお前の役目じゃないのか?」
「言われなくてもわかっている」

 ふいと顔をそらしたジークヴァルトを、ハインリヒはあきれたように見やった。

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