氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 しばらくふたりの会話を遠巻きに眺めていた。端々で聞きなれない単語が耳に入ってくるが、専門用語過ぎてリーゼロッテにはまるで理解できない。時折、ジークヴァルトが心配そうにこちらを振り返る。そのたびにリーゼロッテはにこりと笑みを返した。

(ジークヴァルト様って、案外表情豊かよね。それに、すごくわかりやすい性格だわ)

 はじめは無表情に見えたその顔も、今では何を考えているのか容易に想像がつく。子供だと(あなど)られているうちに、どうにか主導権を握ってしまいたい。

 そんなことを考えているうちに、話に熱中しだしたのかジークヴァルトがこちらを振り返ることがなくなった。それがわかるとリーゼロッテは、王城の廊下をきょろきょろと見回した。

 少し離れた柱の陰に、異形の影が垣間見える。その異形からはぼそぼそと何かを話すような波動が感じられた。しかし、それはリーゼロッテに訴えているというより、ひとり内にこもってぶつぶつとつぶやいているようだった。

(ジョンも初めはあんな感じだったっけ)

 めそめそと泣くジョンの声は、聞き取りづらいものだった。何度も通ううちに、少しずつこころがほどけていって、ジョンはリーゼロッテに意識を向けるようになった。少しずつ、少しずつ、ジョンが心を取り戻していく様を、リーゼロッテはそのそばでずっと見守ってきた。

(ジョン……)
 切ない気持ちに捕らわれたまま、リーゼロッテはしばらくの間、柱の陰の異形の者をぼんやりと眺めやっていた。

 ふいにぶつりと音がして、しゃらりと何かが首元をすり抜けた。驚いて足元を見やると、胸に下げていたはずの守り石が床を転がっている。

(いけない! 守り石が……!)
 あれがないと異形を追い払うこともままならない。かがみこんだリーゼロッテは、あわてて守り石へとその手を伸ばした。

 つかみかけた守り石がぴょんと跳ね、リーゼロッテの手を逃れていった。それをまた追いかけてつかみ取ろうとすると、磁石が反発するがごとく、守り石はどんどん先に転がっていく。

(え? 何? ちょっと待って!)

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