氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「――……っ!」
眼下にうつくしい女がいる。バレーボールをトスするような格好で、その女はリーゼロッテをさらに上へ上へと押し上げていく。
プラチナブロンドに紫の瞳をした、ハインリヒによく似たうつくしい女だ。リーゼロッテを押し上げる熱はあたたかく、とても心地がいいものだ。だが、女の顔は凍るように冷たく、そこに表情は見いだせない。あたたかい波動とは裏腹に、冷酷無比な印象だ。
リーゼロッテを天井高くまで押し上げると、女は満足そうに微笑んだ。そのまま体を翻して、ハインリヒ王子へと向き直る。ゆったりとしたドレープのかかった白いローブをはためかせながら、女は王子へとまっすぐ手を差し伸べる。
王子の元にたどり着いた女は、まるで我が子を慈しむかのように、王子の頭を包え込んだ。そのまま吸い込まれるように、ハインリヒの体の中に溶けて消えていく。
その様子をリーゼロッテはスローモーションのように見守っていた。まるで映画のワンシーンを眺めやっているようだ。
女が掻き消えた直後、青ざめたまま立ちつくす王子の脇をすり抜けて、カイが自分を見上げながら走ってくるのが目に入った。
次の瞬間、リーゼロッテの視界に天井だけが広がった。放物線を描いて放り出された体が、のけぞるような姿勢に変わる。落下しはじめているのだと、他人事のように分析する自分がいた。
体は階段上から落ちている。その先にある衝撃を思うと、大怪我を負うのは想像に難くない。
だが、死ぬことはないのだろう。この身は龍の託宣を受けたのだから。
スローモーションで遠ざかっていく天井の模様を見つめながら、リーゼロッテは冷静にそんなことを考えていた。
どさりと背中に衝撃を感じた瞬間、時間の流れが元に戻った。どちらが本当の感覚なのか一瞬だけ混乱を招く。
見上げた先の階段上から、あわてて駆け下りてくるカイの姿が見えた。同時にぎゅっと腹に巻かれた腕に力が入れられ、リーゼロッテはジークヴァルトの腕の中にいることに気がついた。
足を投げ出したままのジークヴァルトの上で、リーゼロッテは抱きとめられていた。恐らく滑り込むようにして、落ちてくるリーゼロッテを受け止めたのだろう。
肩で息をしているジークヴァルトに背中を預けたまま、リーゼロッテは血の気の引いたその顔をのけぞるように見上げた。
「ヴァルト様……王子殿下からとてもきれいな女の方が……」
眼下にうつくしい女がいる。バレーボールをトスするような格好で、その女はリーゼロッテをさらに上へ上へと押し上げていく。
プラチナブロンドに紫の瞳をした、ハインリヒによく似たうつくしい女だ。リーゼロッテを押し上げる熱はあたたかく、とても心地がいいものだ。だが、女の顔は凍るように冷たく、そこに表情は見いだせない。あたたかい波動とは裏腹に、冷酷無比な印象だ。
リーゼロッテを天井高くまで押し上げると、女は満足そうに微笑んだ。そのまま体を翻して、ハインリヒ王子へと向き直る。ゆったりとしたドレープのかかった白いローブをはためかせながら、女は王子へとまっすぐ手を差し伸べる。
王子の元にたどり着いた女は、まるで我が子を慈しむかのように、王子の頭を包え込んだ。そのまま吸い込まれるように、ハインリヒの体の中に溶けて消えていく。
その様子をリーゼロッテはスローモーションのように見守っていた。まるで映画のワンシーンを眺めやっているようだ。
女が掻き消えた直後、青ざめたまま立ちつくす王子の脇をすり抜けて、カイが自分を見上げながら走ってくるのが目に入った。
次の瞬間、リーゼロッテの視界に天井だけが広がった。放物線を描いて放り出された体が、のけぞるような姿勢に変わる。落下しはじめているのだと、他人事のように分析する自分がいた。
体は階段上から落ちている。その先にある衝撃を思うと、大怪我を負うのは想像に難くない。
だが、死ぬことはないのだろう。この身は龍の託宣を受けたのだから。
スローモーションで遠ざかっていく天井の模様を見つめながら、リーゼロッテは冷静にそんなことを考えていた。
どさりと背中に衝撃を感じた瞬間、時間の流れが元に戻った。どちらが本当の感覚なのか一瞬だけ混乱を招く。
見上げた先の階段上から、あわてて駆け下りてくるカイの姿が見えた。同時にぎゅっと腹に巻かれた腕に力が入れられ、リーゼロッテはジークヴァルトの腕の中にいることに気がついた。
足を投げ出したままのジークヴァルトの上で、リーゼロッテは抱きとめられていた。恐らく滑り込むようにして、落ちてくるリーゼロッテを受け止めたのだろう。
肩で息をしているジークヴァルトに背中を預けたまま、リーゼロッテは血の気の引いたその顔をのけぞるように見上げた。
「ヴァルト様……王子殿下からとてもきれいな女の方が……」