氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「託宣を受けたものはみな、赤子のうちにここに入るのが決まりとなっている。リーゼロッテ嬢もラウエンシュタイン公爵と共に、一度この部屋を訪れているはずだ」

 赤ん坊の時のことを言われても、その記憶が残っているはずもない。だが、リーゼロッテはただ神妙に頷いた。

「少しでいい。リーゼロッテ嬢もここに力を流してみてくれ」

 ハインリヒが距離を開けるように扉の前から退いた。頷いてその扉の前まで近づくと、リーゼロッテは言われるまま、龍のレリーフに向けて力を流した。

 リーゼロッテのかざした手の先が仄かな緑に輝く。しかし、その緑はふわりとひろがり、そのまま消えてなくなった。扉を見上げるも、その鉄の塊は微動だにしていない。

「……やはりだめか。わたしの守護者が視えた君なら、この扉も開くのではと思ったが」
 重いため息と共にハインリヒが言う。

「申し訳ございません。わたくし……」
「いや、いい。この部屋は必要な時にしか開かない。すべては龍の(おぼ)()しだ」

 この部屋の中にある託宣の泉に姿を映せば、受けた者の託宣がそこに浮かび上がってくる。この中に候補となり得る者をすべて放り込めれば、自分の託宣の相手はすぐにでもわかるのに。だが、龍はそれすらも許さない。

 扉から視線を外すと、ハインリヒはいちばん手前に飾られている肖像画をじっと見上げた。つられてリーゼロッテもそちらを見やる。

「王子殿下……?」
 思わずそう声に出す。そこに掲げられた肖像画は、まさにハインリヒ王子のものだった。

「あれは始まりの王だ。驚くほどわたしに瓜ふたつだろう?」

 ハインリヒは自嘲気味に笑った。八百年以上を経てもなお、王家の血は脈々と受け継がれている。
 それなのになぜ、今、龍はこの国を見捨てようとしているのか――

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