氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
(ええ、順調に頭を悩まされていますとも……!)

 にこやかに応対しつつも、マテアスは頭の中で、執務室を何度も破壊しまくる主人に向かって悪態(あくたい)をついていた。

 公爵家の呪いに関しては、長年フーゲンベルク家で繰り返し起きていることなので、王城に残されている過去の調書(ちょうしょ)には、歴代(れきだい)の当主がおこした騒ぎが(あま)すことなく(しる)されている。カイは事前にそれらに目を通していた。

(でも、ジークヴァルト様のことだから、結局は未遂(みすい)で終わってるんだろうな)

 王城で繰り広げられていた、かみ合わない喜劇(きげき)のようなふたりのやりとりを思い浮かべる。やはり視察はジークヴァルトがいる日に来るべきだったと、カイは少々()やんでいた。

 そんな時、執務室の扉をノックする音が響いた。リーゼロッテがやってきたようだ。扉を開けたマテアスが何事かを話しかけ、部屋の中へと(いざな)っている。
 リーゼロッテは十五歳の誕生日を迎えてから、(ろう)せず力を解放できるようになったと、ジークヴァルトから聞いていた。聞いてはいたのだが、近づく気配に、カイは内心、驚きを隠せなかった。

(まさかここまでとは……)

「カイ様?」

 驚いたように名を呼ばれ、カイは声の主を振り返った。そこにいたのは、(あふ)れんばかりの聖女の力をその身にまとったリーゼロッテだった。

 王城にいたときは、小さな体の中に凝縮(ぎょうしゅく)された力を、無理矢理(むりやり)押し込めている印象だったが、今は無尽蔵(むじんぞう)にその力をまき散らしている。

 泉のように()き出る力に()かれて寄ってきているのだろう。後ろから、ちょろちょろと様子を伺うように小鬼が何匹もついてきていた。だが、ジークヴァルトの守り石のせいで、近づくことはできないようだ。
 少女だった体つきも丸みを帯びてきて、少し大人びたようにも感じる。

「しばらく会わないうちに、すごく綺麗になったね、リーゼロッテ嬢」

 そう言って、カイは(まぶ)しそうに目を細めた。

「まあ、お世辞でもうれしいですわ」

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