氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 ハインリヒはそれきり黙ったまま、思いつめるようにじっと肖像画を見上げていた。その苛立ちは誰に向けられたものでもなく、他でもない、王子自身に向けられているようだった。苦し気にたたずむその姿を前に、リーゼロッテにはそんなふうに思えてならない。

「……すべてが龍の思し召しと言うのなら、王子殿下のお相手は、心配せずともいずれ必ず見つかるのではないでしょうか」

 ぽつりと漏れ出たその言葉に、ハインリヒがはっとこちらを振り返った。国の命運を左右する非常事態だ。軽はずみな発言だったと、瞬時に後悔がよぎるも、そんなリーゼロッテに、王子は乾いた笑いを向けただけだった。

「君は……アデライーデと同じことを言うんだな」
 続けて何かを言いかけて、ハインリヒはそのまま端正な顔をゆがませる。

「あの日、わたしが触れさえしなければ……アデライーデはあんな目にあうことなどなかったのだ」

 今にも泣きだしそうなその顔を前にして、かける言葉などみつかるはずもない。


「わたしは彼女の未来(すべて)を奪った」

 震える声は慟哭(どうこく)を思わせて――


 リーゼロッテにはただ黙って、王子の言葉に耳を傾けることしかできなかった。

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