氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
     ◇
 今日、ハインリヒは王太子として多くの貴族の前に立った。もう、子供として甘えることも許されない。
 式典用の立派な衣装を身に着け、自然と背筋が伸びる。この身が引き締まるとともに、言葉にしがたい高揚感にいまだ包まれていた。
 式典が滞りなく終わった後も興奮が冷めやらぬまま、ハインリヒは後宮の自室へとひとり向かっていた。

 後宮は入れる者が限られているため、わりと自由に動き回れる場所だ。ここを一歩出ると、近衛の騎士が張り付いたようについてくる。見張られているようで正直うっとおしいが、自身を守るためだと思えばついて来るなと言えるはずもない。

 少し身軽になった気分で歩く後宮で、ハインリヒは着飾った令嬢の姿を認めた。
 爵位の高い貴族なら、後宮に足を踏み入れることは、それほど難しいことではない。その誰かが娘を連れてきたのかもしれないと、ハインリヒは思わず身構えた。

 自分は託宣の相手がいまだみつかっていない。その隙を狙って、王妃の座を射止めんとする貴族が後を絶たないのだ。
 先ほどの立太子の儀でも、令嬢を連れた貴族たちが自分に取り入ろうと群れをなしてきて、その対応に辟易してきたばかりだ。

 ほとんどが龍の託宣の存在を知らぬ者たちだったが、分かっていて娘をあてがおうとする者もいるからなお始末に悪い。そういう(やから)がいるので注意するようにと、確かに事前に言われてはいたが、現実にそれを目の当たりにすると、やはり驚きの方が大きいものだ。

 これがこの先も続くのかと思うと、少々気が滅入る。

(いつになったらわたしの相手は見つかるのだろうか)

 歴代の王たちは、幼少の折から託宣の相手と共に過ごすのが当たり前の事らしい。だが、自分だけがそうではないのは理不尽にも感じられる。

(いや、父上もそうだったと聞く。だからわたしの相手もじきに見つかるはずだ)

 父王ディートリヒの託宣の相手も、はじめはなかなか見つからなかったらしい。だが、隣国の王女の顔に龍のあざがあることがわかり、交渉の末、母であるセレスティーヌを王妃に迎えたと聞いていた。

(国交もろくにない頃で、いろいろと大変だったらしいが)

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