氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 王となる者の託宣の相手が異国の人間であったのは、セレスティーヌが初めてのことだったらしい。だが、その血筋を紐解けば、ブラオエルシュタインの王家の血が隣国へ渡った経緯があったことが判明した。

 ならば、ハインリヒの相手も国外にいるのではとも思ったが、現時点で近隣諸国に条件に見合う姫君はいないようだ。自分の相手はやはり国内にいるのだろう。

 その相手が見つかるまでは、下手にどこかの令嬢の手管にひっかかってはならないと、周りの者たちから口うるさく言われている。最近では帝王学だけではなく、子孫繁栄のための教育も受けるようになった。
 女性のあの柔らかそうな体には興味はあるが、それに惑わされてはならないのだ。そんなことを思いながら、ハインリヒは行く先にいる令嬢を観察するようにじっと見やった。

「アデライーデ……?」

 驚いたように問うと、その令嬢は静かに振り返った。王太子が冊立される場に相応(ふさわ)しい装いのうつくしいドレス姿に、ハインリヒは言葉を失った。

 アデライーデとは子供の頃、共に過ごした過去がある。
 ジークヴァルトが異形に常に狙われているという理由で、巻き込まれることを避けるために、アデライーデは一時的に王妃の離宮に預けられていた時期があった。

 四つ年上のアデライーデに、子供だったハインリヒはひな鳥のようについて回った。今考えると、二人の関係は王子と公爵令嬢というより、仲の良い姉弟といった所だったろう。
「王太子殿下。本日は立太子の儀をご立派に務められて、わたくしも我がことのようにうれしく思っております」

 子供の頃の面影は限りなく薄く、うつくしい所作でアデライーデは淑女の礼をとった。そのよそよそしさに、面食らうのと同時に、ハインリヒは幾ばくかの疎外感を感じた。

 アデライーデは去年社交界にデビューしている。すでに立派な貴族なのだ。そう思うものの、一抹のさびしさはぬぐえなかった。

 アデライーデは礼をとったまま、じっと頭を下げている。自分よりまだ背は高いものの、アデライーデはこんなにも華奢な少女だっただろうか?
 いや、もう少女と呼べる体つきではないのだろう。細い腰と、うつむき加減の胸の谷間に、ハインリヒの目は無意識のうちにくぎ付けとなっていた。

< 475 / 684 >

この作品をシェア

pagetop