氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 しばらく沈黙がおりる。アデライーデからそれ以上の反応がないことに疑問を感じたハインリヒは、アデライーデが自分の許しを待っているのだとようやくそこで気がついた。

「あ……いや、ここでは、そんなふうにかしこまらなくてもいい」

 ようやくそう口にすると、アデライーデは体を起こして大仰にため息をついた。

「人が礼を尽くしているっていうのに、嫌がらせみたいに放置するなんて! もう、信じられない!」

 腰に手を当てて、ぷぅと頬を膨らませたアデライーデは、昔のままだった。そのことになぜだか安堵する。

「そんなこと言われてもだな。急なことでわたしも驚いたんだ」
「カーテシーってほんと体勢きついんだから! ハインリヒも一度やってみるといいわ」

 そう言って、アデライーデはぷいと顔をそむけた。これも昔からの彼女の癖だ。

「王太子に淑女の礼をとれというのか?」

 ぷっとふき出しながら、昔のような気やすい間柄にハインリヒはほっと息をついた。気を許せる存在は、身内以外は片手で数えらるほどしかいない。
 ジークヴァルトもそのうちのひとりだが、アデライーデは自分にとって、もうひとりの姉のようであり、かけがえのない友のようでもあった。

「何よ、偉そうに。最近も、お気に入りの女官を驚かしては、よろこんでいるそうじゃない? どうせまた、胸の大きな女官ばかり狙っているんでしょう?」
「ばっ、そんなはずはないだろう!?」
「そんなはずあるにきまっているわ。だって、ハインリヒ、昔っから胸の大きな女官が好きだったじゃない」

 その言葉に、ハインリヒはぐっと言葉につまった。思い当たることがないわけでもないのが実に痛いところだ。

「そ、そんなことより、アデライーデはどうしてここにいるんだ?」

 アデライーデが手持無沙汰に、ぽつんと後宮にいるなどめずらしいことだ。話をそらすようにハインリヒは言った。

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