氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
その瞬間、遠くで何かが叩きつけられるような鈍い音が響き渡った。顔を上げたその先に、白いドレスをまとう女が烈火の表情で宙に浮かんでいた。そのさらに先に、窓にはりつけにされた人形の姿――
それがアデライーデなのだと認識したのは、サンルームの窓が砕け落ちた直後のことだった。糸の切れたマリオネットのように、アデライーデの体が床に転がった。
「ア――……っ」
のどが引き攣れたように声が出ない。
宙に浮かんだ白い女は、体を翻して手を差し伸べるように自分へと帰ってくる。苛烈な表情から一転、うつくしいその顔は、慈愛に満ち満ちたものだった。
あたたかい。
何が起きたかもわからぬまま、鮮烈なその存在を前に、ハインリヒの瞳からは涙がこぼれ続けた。
自分の瞳と同じ色をしたうつくしい女は、愛おし気にこの頭を包み込む。かと思うと、再び自身の中に溶けていく。吸い込まれる感覚を残して、そのままふっとかき消えた。
途端に冬の冷たい風がこの髪を大きく乱した。顔を上げた向こう、かろうじてぶら下がっていたガラスの破片が、無慈悲に床へと降り注ぐ。
ぱらぱらと破片が落ちる中、ピクリとも動かないアデライーデの下から何かがじわりと流れ出た。それは床の上を、ゆっくりと、だが確実にその面積を広げていく。雪風にまぎれて匂うそれは、そう、錆びたような鉄のにおい。
「アデライーデ様っ……!」
女官の悲鳴を、ハインリヒはどこか遠くのように聞いていた。そのあとの記憶は、都合のいいことに、黒く塗りつぶされたかのようにぶつりと途切れた。
その日以来、アデライーデに会うことは、一度もなかった――
それがアデライーデなのだと認識したのは、サンルームの窓が砕け落ちた直後のことだった。糸の切れたマリオネットのように、アデライーデの体が床に転がった。
「ア――……っ」
のどが引き攣れたように声が出ない。
宙に浮かんだ白い女は、体を翻して手を差し伸べるように自分へと帰ってくる。苛烈な表情から一転、うつくしいその顔は、慈愛に満ち満ちたものだった。
あたたかい。
何が起きたかもわからぬまま、鮮烈なその存在を前に、ハインリヒの瞳からは涙がこぼれ続けた。
自分の瞳と同じ色をしたうつくしい女は、愛おし気にこの頭を包み込む。かと思うと、再び自身の中に溶けていく。吸い込まれる感覚を残して、そのままふっとかき消えた。
途端に冬の冷たい風がこの髪を大きく乱した。顔を上げた向こう、かろうじてぶら下がっていたガラスの破片が、無慈悲に床へと降り注ぐ。
ぱらぱらと破片が落ちる中、ピクリとも動かないアデライーデの下から何かがじわりと流れ出た。それは床の上を、ゆっくりと、だが確実にその面積を広げていく。雪風にまぎれて匂うそれは、そう、錆びたような鉄のにおい。
「アデライーデ様っ……!」
女官の悲鳴を、ハインリヒはどこか遠くのように聞いていた。そのあとの記憶は、都合のいいことに、黒く塗りつぶされたかのようにぶつりと途切れた。
その日以来、アデライーデに会うことは、一度もなかった――