氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
     ◇
「なんだ、こりゃあ」

 目の前の光景にバルバナスは目を見張った。雪が積もった裏庭で、その周りだけが土がむき出しになっている。

 何より目を引くのは、そこに立つ一本の木だ。このくすんだ雪景色の中、その枝に生い茂る緑だけがことさら異彩を放っていた。
 葉かと思いきや、そこにまとわりついているのはどこかで見覚えのある緑の力だ。その木の根元で、異形の者が木に片手をついて上を見上げたまま立っている。

「おい、なんであんなことになってんだ?」
「あの異形に関する調書の写しです」

 横にいた騎士がバルバナスにぶ厚い紙の束を手渡した。それをパラパラめくると、途中でそれを投げ返す。

「数百年間、年に一度は騎士団か神官の調査が入ってるのに、なんでここにきて星を堕とす者なんだ? しかもつい最近、デルプフェルトの小僧が来てんじゃねえか」

 忌々しそうに言うと、バルバナスは周囲を見渡した。

 バルバナスをはじめ騎士が数人と公爵家の人間が、雪のない円をやや距離を置いて取り囲んでいる。物々しい雰囲気にみな緊張した面持ちだが、ここにいるのは全員力ある者だ。

 家令のエッカルトに、ユリウス・レルナー、奥にいる大男は子爵家のヨハン・カークだろう。バルバナスは最後に、先ほど案内を務めた細目の青年に目を止めた。

「お前、ジークヴァルトの……マテアスとか言ったな。なんでこんなになるまで報告しなかった?」
「恐れながら、あの異形がこのようになった後、国には即刻ご報告いたしております。直後からこの区画は誰も近づけぬように封鎖済みですし、公爵家としましては、先日の調査を終え、今後の指示を待っていたところでございます」

 隙のないマテアスの返事に、バルバナスはちっと舌打ちをした。ざっと見たところ、ここにいる者の中で自分に次いで力を有しているのはこのマテアスだ。騎士団の特務隊にいる誰よりも、もしかしかしたらマテアスの方が上かもしれない。

 ジークヴァルトの手駒に優秀な者がそろっているのも腹立たしい。龍付きはみな無条件で優遇される。この国の成り立ちを思うと当然ともいえるのだが、それこそが諸悪の根源だ。

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