氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 ほどなくして、戸惑った様子のエラがマテアスに連れられてきた。物々しい雰囲気の中、バルバナスをはじめ、騎士とエッカルトたちの視線がエラへと集まる。

「これをあの木の根元へかけてこい」

 バルバナスに透明な液体が入った小瓶を渡されて、エラは困惑した様子で枯れ木に視線を向けた。みなが取り囲む木の周りは、きれいに雪が避けられている。だが、何の変哲もないただの枯れた大木だ。

 晩夏から秋にかけてリーゼロッテは、よくこの木の根元近くで休憩をしていた。主にエマニュエルが付き添うことが多かったが、エラも幾度かこの場所へ足を運んだことがある。

 リーゼロッテはいつもここでお茶を飲みながら、耳を澄まして時折静かにうなずいていた。小鳥のさえずりに耳を傾けるように、口元をほころばせるその様子は、まるで一枚の絵のようにエラの目には映った。

 秋風が吹く頃には公爵に行くのを止められたのか、リーゼロッテはここへ行きたいとは言わなくなった。そのくらいから、リーゼロッテに何か隠し事をされているように、エラはずっと感じとっている。

「エラ様。何かおかしいと思ったら、すぐにお戻りください」

 マテアスに小声で耳打ちされて、エラはこくりと頷いた。なぜこんなことを要求されているのかは皆目見当もつかないが、王族であるバルバナスの命令に逆らえるはずもない。

 何の抵抗もなく円の中に入り、そのまま木に向かってすたすたと歩いていく。そんなエラを、一同は固唾(かたず)を飲んで見守った。エラにはジョンが視えていないのだろうが、周りにいる者はいつ何が起こってもおかしくはないと、否応なしに緊張感が高まっていく。

 木の根元まで来るとエラは一度こちらを振り返った。すぐ横にいるジョンは、動じることなくじっと上を見上げたままだ。

「そのままそこに水をかけろ」

 バルバナスに言われ、エラは手にした小瓶を、木の根元に向けて傾ける。ちょうどジョンのいる足元あたりへと、液体は注がれようとした。

「きゃあっ」

< 495 / 684 >

この作品をシェア

pagetop